取引信用保険とファクタリングには、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。両者は売掛債権を対象にしている共通点があることから、混同してしまうケースも少なくありません。
本記事では、取引信用保険とファクタリングの違いや、メリット・デメリットについて解説していきます。また、売掛債権の回収と密接に関係してくる、資金繰りの改善方法についても紹介します。
取引信用保険やファクタリングの活用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
取引信用保険とは
取引信用保険とは、売掛債権の貸倒に備える保険をいいます。
保険会社との契約により保険料を支払うことで、取引先企業の経営状況の悪化などにより、売掛債権が不良化した際に保険金が給付されます。
取引信用保険を活用することで、売掛債権が不良債権化した際の、経営に及ぼす影響を最小限に抑えることが可能です。
取引信用保険で補償される事例
取引信用保険の加入することで、以下のようなケースで売掛債権が不良化した場合、保険による補償を受けることができます。
- 破産、民事再生、会社更生法などの手続きを開始したとき
- 特別清算の開始申立があったとき
- 取引金融機関または手形交換所の取引停止処分を受けたとき
- 財産の強制換価手続きが開始されたとき
- 仮差押命令がされたとき
- 差押え通知がされたとき
- 取引企業の相続人全員が限定承認または相続放棄の申述をしたとき
保険料と縮小率について
取引先信用保険の保険料は、支払限度額によって決まります。
取引先数や信用情報によって異なりますが、年間3%程度の保険料率が一般的です。また、実際に給付される保険金額は「縮小率」と呼ばれる数字によって決められます。
縮小率とは、支払われる保険金額を算出するための数字であり、多くの保険会社では90%前後に設定されています。実際に支払われる保険金は、「損害額に縮小率をかけた金額」と「支払上限額」のいずれか低い金額となることが一般的です。
一例として、損害金額が3,000万円、支払上限額が2,500万円、縮小率が90%の場合を考えてみます。
損害額3,000万円に、縮小率90%を乗じた金額は2,700万円です。これに対して、支払上限額は2,500万円です。両者を比較して、低い金額である2,500万円が保険金として支払われます。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、まだ回収されていない売掛債権を売却し現金化することをいいます。債権売却による資金調達であり、「融資による借入ではない資金調達方法」として中小零細企業を中心に利用が進んでいます。
- 担保や保証人が不要
- 自社の業況や信用情報に関係なく利用可能
- 即日資金調達が可能
ファクタリングは、この様なメリットがあります。また、ファクタリングは「買取型」と「保証型」と2種類に大別されます。これらは、利用する目的や場面が異なるため、以下で紹介していきます。
ファクタリングの全体像やメリットデメリットについては、以下の『ファクタリングとは?メリットとデメリットは?』をご確認ください。
買取型ファクタリング
買取型ファクタリングは、売掛債権を早期に現金化したいときに使われます。
ファクタリング会社に、入金前の売掛債権を売却することで、手数料を差し引かれた金額が入金されます。売掛金などの信用取引は、通常支払期日が1~3ヶ月先に設定されています。
支払期日まで資金を回収することができないため、仕入れや人件費などの資金繰りが困難な場合があります。買取型ファクタリングを活用することで、資金繰りに困った際に短期間で確実な資金調達が可能となります。
保証型ファクタリング
保証型ファクタリングは、売掛金や受取手形などの売掛債権に対して保険をかけ、貸倒リスクを回避することができるサービスです。
万が一、売掛債権が不良化し回収できなくなった場合、ファクタリング会社から保証限度額の範囲内で、売掛債権の金額を受け取ることができます。
保証型ファクタリングは、買取型とは違い短期間での資金調達を目的とするものではありません。従って、売掛債権をファクタリング会社に売却することはなく、万が一の際の保険として活用する方法となります。
取引信用保険とファクタリングの違い
売掛債権を対象にする取引信用保険とファクタリングは、「利用目的」が最も大きな違いです。
取引信用保険は、資金の調達は目的とせず、売掛債権の不良化に備えるための保険です。これに対して、ファクタリングは、売掛債権の保全ではなく、売却による資金調達を目的としています。
従って、利用を検討するケースやタイミングもそれぞれ異なります。また、取引信用保険は複数の取引先に対して一括で保険をかけることが原則です。複数の取引から選択して保険の対象とすることはできません。
ファクタリングでは売却する債権を任意に選択することが可能です。複数取引先に対する債権のうち、一社のみの売却債権を現金化することもできます。
取引信用保険とファクタリングの共通点
互いに売掛債権を対象にしていることから、取引信用保険とファクタリングには、いくつかの共通点が存在します。
一例として、取引信用保険の保険料とファクタリングの手数料は、いずれも取引先の信用状態に応じて設定される点などがあります。取引信用保険とファクタリングの共通点と違いについて、下表で一覧にまとめます。
項目 | 取引信用保険 | ファクタリング |
利用目的 | ・売掛債権の保全 | ・売却による資金調達 |
対象債権 | ・物販による債権のみ | ・すべての売掛債権 |
売掛先の選定 | ・自由に選択はできない ・複数の取引先を包括的に対象とすることが一般的 | ・自由に選択できる ・一社のみを選択することも可能 |
手数料・保険料 | ・支払限度額の3%程度 | ・売掛債権の3%~20% |
輸出債権の対応 | ・対応可能 | ・国際ファクタリングでは利用可能 |
取引信用保険のメリット
取引先信用保険を活用することには、多くのメリットがあります。ここでは、代表的なものについて4つ紹介していきます。導入検討時の参考としてください。
資金繰りの安定化
取引信用保険の活用により、資金繰りの安定化というメリットが得られます。
売掛債権が不良債権化すると、回収に期間を要するだけでなく資金繰りに悪影響を及ぼします。保険金で不良債権化した売掛金を賄うことにより、資金繰り悪化や資金ショートのリスクを低減することが可能です。
そのため、取引信用保険の導入は、自社の資金繰りへも好影響を与えます。
対外的な信用力が高まる
取引信用保険により売掛債権の保全をすることで、対外的な信用力を高められるメリットがあります。
売掛債権が焦げ付いてしまった場合、金融機関や取引先が懸念することは、売掛金が入金されないことによる資金ショートです。取引信用保険の加入により債権保全を図ることで、貸倒れによる資金ショート懸念を払拭できます。
また、新規取引先との迅速な取引開始にも寄与します。
小口取引先との取引深耕
取引信用保険の活用には、小口取引先との取引深耕を図れるメリットがあります。
これは、取引信用保険によって、信用力が測りづらい小口取引先の債権保全が図られるためです。また、取引先が増えるのに伴い、貸倒引当金や貸倒リスクの算出といった業務が増加します。
取引信用保険の利用によって、貸倒リスクをカバーすることで、新規取引先の取引深耕や既存取引先の債権管理が進めやすくなるのです。
債権管理コストを抑えることができる
取引信用保険の活用によって、貸倒引当金の計上額の縮小が可能となります。
売掛債権が不良化した際にも、取引信用保険が適用されることによって、貸倒損失の額が平準化されます。また、支払った保険料は損資金処理が可能です。
取引信用保険のデメリット
取引先信用保険の活用は、デメリットも少なからずあります。ここでは、代表的なものについて4つ紹介していきます。導入検討時の参考としてください。
与信審査を経る必要がある
取引信用保険の保険対象は売掛債権であるため、保険会社によって取引先の与信審査が行われます。
与信審査では、取引先に関する信用情報や業績内容などがチェックされます。審査の結果によっては、「保険料が高くなる」「保険金の支払限度額が少なくなる」ということがあります。
また、取引先の審査結果によっては、保険がかけられない可能性もある点に気を付けましょう。
保険対象は包括的に設定する必要がある
取引信用保険は、保険対象となる取引先を選ぶことはできません。
保険会社によって契約条件は異なりますが、取引信用保険では
- 全ての取引先を対象にすること
- 10社以上の取引先から設定が可能
- 売上高上位10社に限る
といった条件が付されていることが一般的です。そのため、保険対象を売掛債権の回収懸念がある一社だけに限定して、取引信用保険に加入することはできません。
売掛債権を売却することはできない
取引信用保険は、売掛債権を売却することはできません。
保険金が支払われるのは、売掛債権が不良化した場合に限られます。そのため、資金繰りが悪化した場合であっても、保険対象としている売掛債権を売却することはできません。同様に、現在保有している債権をすぐに保全するといったこともできません。
対象債権に制限がある
取引信用保険では、対象債権に制限があります。一般的には、物販によって生じた売掛債権が保全対象であり、工事契約やWebサービスなどによる請負債権は対象外になっています。
対象債権の種類に制限があることから、取引信用保険に加入できる企業や業種は限られています。
ファクタリングのメリット
取引先信用保険の活用は、いくつかのメリットがあります。ここでは、代表的なものについて3つ紹介していきます。導入検討時の参考としてください。
自社の業績に関わらず資金調達が可能
ファクタリングは売掛債権の売却のため、自社の業績に関わらず資金調達が可能というメリットがあります。ファクタリングは、取引先企業の業績や信用に基づいて実行されるため、自社の業績がよくない場合であっても資金調達が可能です。
スピーディーな資金調達が可能
ファクタリングは、スピーディーな資金調達が可能というメリットがあります。売掛債権の売却という性質上、取引先企業が期日に支払ができるかという点を主に審査すればよく、最短で即日の資金調達も可能です。
債権売却により貸倒リスクを回避できる
ファクタリングによって売掛債権を売却することで、貸倒リスクを回避できるというメリットがあります。
ファクタリングにより売却した売掛債権は、売却後に不良化した場合でも対価を返金する必要はありません。このため、ファクタリングは資金調達のみならず、売掛債権の不良化リスクを回避するという使い方もできます。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングには、デメリットも少なからずあります。ここでは、代表的なものについて2つ紹介していきます。導入検討時の参考としてください。
融資に比べて手数料が割高である
ファクタリングは、融資などの資金調達方法に比べて、手数料が割高であるというデメリットがあります。
金融機関による融資の場合、低ければ1%から、高くとも10%程度で資金調達ができることを考えると、その差は大きいといえます。
取引先の業績によって利用できないこともある
ファクタリングでは、売掛先企業の業績や信用をもとに審査が行われます。
そのため、自社の業績に関わらず資金調達が可能というメリットはありますが、売掛先企業の業績がよくないと利用できないこともある点に注意が必要です。
資金繰りの改善方法
ここでは、売掛債権の回収と密接に関係する「資金繰りの改善方法」について紹介します。
いくつかの方策を実施することで、資金繰りが改善される可能性があります。自社の状況と照らし合わせ、参考にしてみてください。
資金繰り表を作成する
資金繰りを改善するために、まずは資金繰り表を作成しましょう。資金繰り表を作成し現金の流れを把握することで、資金繰り悪化の兆候にいち早く気づき、資金ショートを防ぐことができます。
資金繰り表は、表計算ソフトで簡易的なものを作成したり、無料のソフトを活用したりと、様々な方法によって作成可能です。
入金・支払サイトについて交渉する
資金繰りを改善する上では、キャッシュ・インを可能な限り早くし、キャッシュ・アウトを可能な限り遅くすることが原則です。
キャッシュ・インは入金を指し、キャッシュ・アウトは支出を指します。商品・サービスを販売する際には、売掛金の入金期日について可能な限り早めるように交渉しましょう。
また、仕入れ代金等の支払条件については、支払期日について可能な限り遅くするように交渉することが大切です。
売上・利益を向上させる
売上・利益を向上させ手元に残るキャッシュを増加させることは、資金繰り改善の一番の近道です。
売上向上のための営業活動強化、利益向上のための原価・経費の削減などを意識し、資金繰りの改善に努めましょう。
経費を削減する
経費を削減することも、資金繰り改善の上で重要な項目です。
事業活動では仕入をはじめとして、人件費や地代家賃、水道光熱費などさまざまな経費が発生します。これらの経費については、人件費や地代家賃などのように売上の増減に関係なく発生する固定費なのか、仕入のように売上の増減によって発生額が変動する変動費であるのかを把握する必要があります。
経費の中でも固定費に該当する部分を削減すれば、毎月の支払額が下がるため効果的に資金繰りを改善することができます。
ファクタリングを利用する
売上代金が入金されるまでにキャッシュが必要となった場合、売上債権を売却することも一つの選択肢です。
売上債権の売却は「ファクタリング」と呼ばれ、入金前の売上債権を買い取ってもらうことができます。売上債権の売却時には、ファクタリング会社に対して所定の手数料を支払う必要がありますが、近年ではオンラインで完結するサービスの台頭により、10%以下の手数料率である場合も少なくありません。
ファクタリングは、売上債権の売却であるため負債にならない点、最短即日入金というスピード感の速さが魅力です。金融機関の融資を断られてしまった場合や、手続きが間に合わない場合などに有力な資金繰り改善の選択肢です。
売掛金の未回収を減らす
売掛金の未回収がある場合、可能な限り早めに回収しましょう。
売掛金は、商品・サービスを提供することにより発生する代金を受け取る権利です。売上債権や売掛債権とも呼びます。
事業活動を進めていく上では、商品・サービスの販売活動にばかり注力してしまい、債権管理が疎かになってしまうことは珍しくありません。売上債権には時効が存在するため、最悪のケースでは商品・サービスの代金を支払ってもらえなくなる場合もあります。
支払期日を過ぎても入金がない売掛金は、必ず早期に確認するようにしましょう。
不良在庫・遊休資産を売却する
不良在庫・遊休資産はともに、売却価格が購入価格を下回ると損失となってしまいます。
このため、不良在庫や遊休資産の売却をためらう経営者の方は少なくありません。しかし、不良在庫・遊休資産は売却しなければキャッシュを生みません。短期的に見れば損失であっても、資金繰り改善の観点からは早期に現金化することが大切です。
クレジットカードを活用する
資金繰りを考える上では、キャッシュ・アウトはできるだけ遅らせることが重要です。
事業用のクレジットカードを活用することによって、支払先との交渉を経ることなくキャッシュ・アウトを遅らせることができます。
また、カードの種類によってはポイントが貯まるものもあり、現金決済よりもお得になる場合があります。
金融機関から融資を受ける
長期的な資金繰りの安定や設備投資等により、まとまった資金が必要な場合、金融機関から融資を受けることも有効な選択肢の一つです。
融資を受ける相手には、民間の銀行や日本政策金融公庫、自治体の制度融資などがあります。中でも、日本政策金融公庫や自治体の制度融資では、中小企業や小規模事業者のサポートを目的としており、民間の銀行と比較して審査が通りやすい、金利が低めに設定されている等のメリットがあります。
詳しくは『銀行融資を受けるメリットとデメリットとは?』をご確認ください。
まとめ
本記事では、取引信用保険とファクタリングの違い、資金繰り改善の方法などについて解説していきました。
取引信用保険に加入することで、取引先からの売掛債権が不良化しても、保険金によって賄うことが可能です。
売掛債権の不良化は、たとえ1社であっても資金繰りのショートや連鎖倒産に繋がる重要な事象です。
リスクを回避し安定的な経営を進めていきたいと考える経営者にとって、取引信用保険は非常に心強い備えであるといえます。ただし、取引信用保険の加入には、保険料の支払いが発生する点に注意が必要です。
自社とって加入するメリットがあるかどうか、補償内容と保険料のバランスを比較検討することが大切です。