資金調達とは、事業に必要な資金を調達することを指します。会社経営において、資金調達はさまざまな場面において必要となってきますが、個人事業主の資金調達は法人と比べてハードルが高いと思っている方もいるかと思います。
しかし、実際には、個人事業主はもちろん、開業直後でも融資を受けることは可能です。本記事では、資金調達を専門に扱う『資金の先生』が、個人事業主の資金調達方法や、おすすめの資金調達方法について解説します。
資金調達方法だけではなく、審査に通りやすい融資や低金利、返済不要な方法についても併せて紹介していきます。個人事業主として事業を営まれている方や、資金調達を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
そもそも『資金調達』とは
資金調達とは、事業に必要な資金を調達することを意味します。
企業が創業期や事業拡大期に直面すると、自己資金では必要な資金を賄うことができず、他人から資金を調達する必要が生じます。資金調達の目的や種類について、以下で詳しく説明します。
資金調達の目的
資金調達には様々な目的があります。下表には、主な資金調達の目的をまとめました。自社が必要とする資金がどの目的に該当するか確認してみましょう。
資金調達の目的 | 内容 |
創業資金 | 店舗や事務所の取得費、オフィス用品などの備品 |
運転資金 | 商品や原材料の仕入れ代金、従業員の給与や店舗や事務所の家賃 |
設備資金 | 機械設備の導入や事務所や工場などの建物建築、営業用車両の購入 |
事業拡大資金 | 新店舗や新工場の建築資金など |
資金調達方法の種類
資金調達方法は
- デッドファイナンス
- エクイティファイナンス
- アセットファイナンス
の3つに大別されます。それぞれの種類における具体的な調達方法は下表のとおりです。
資金調達方法の種類 | 具体的な調達方法 |
デッドファイナンス | 銀行油脂やビジネスローン、手形割引、家族や知人からの借入 |
エクイティファイナンス | ベンチャーキャピタルからの出資、エンジェル投資家からの出資 |
アセットファイナンス | ファクタリング |
デットファイナンスは、銀行融資や債務発行などの負債によって資金調達をする方法です。
自治体の制度融資や日本政策金融公庫などの公的金融機関、家族や友人からの調達もあります。調達先が多く、資金を得やすいメリットがありますが、毎月の返済負担を考慮する必要があります。
エクイティファイナンスは、株式を交付して出資を受けて資金調達をする方法です。
調達した資金は基本的に返済義務がありません。自己資本が増強され、財務基盤が安定するメリットがあります。しかし、出資者が株式を保有することで、経営権を握られたり、配当を求められたりする可能性があるため、注意が必要です。
アセットファイナンスは、企業や経営者が所有する資産を資金化する方法です。
不動産担保による銀行融資やファクタリングによる売掛債権の現金化などが代表的な例です。また、保険や株式などの金融資産、特許や実用新案、意匠や商標などの知的財産権など、将来的にキャッシュを生み出す資産であれば、アセットファイナンスの対象となります。
まずは個人事業主の資金調達方法を8つご紹介
ここでは、個人事業主の資金調達方法を8つ紹介していきます。
それぞれの手段にはメリット・デメリットがあるため、双方を理解したうえで自社にとって最適な選択肢をとりましょう。
資金調達方法① ファクタリング
ファクタリングは、自社の売掛債権を第三者に売却して資金を調達する方法です。企業間の取引では、代金をその場で現金払いすることは少なく、月末締めで請求書を送付し翌月末に入金となるケースが一般的ですが、売掛債権を売却することで本来の入金予定日よりも早く現金化できます。
ファクタリングには、
- 自社の業績に関わらずスピーディーな資金調達が可能
- 債権売却により貸倒リスクを回避できる
というメリットがあります。
- 一方で、融資に比べて手数料が割高
- 取引先の業績によっては利用できない場合もある
というデメリットがあります。
資金調達方法② 日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、中小企業の支援を目的とした、民間金融機関を補完する公的機関です。
民間の金融機関では対応が難しい案件や、創業時の融資にも対応しています。民間の金融機関よりも金利が低く、返済期限も比較的長いのが特徴です。日本政策金融公庫の融資には
- 他の金融機関に比べ利率が低い
- 返済期間が長く設定できるため、無理のない返済ができる
というメリットがあります。
一方で、
- 必要書類の量が多い
- 申込から融資実行まで多くの時間がかかる
というデメリットがあります。
資金調達方法③ 信用保証協会の保証付きフリーランス融資
信用保証協会は、中小企業が金融機関から融資を受ける際に信用保証を行う公的機関です。
保証制度を活用することで、銀行から直接融資を受けるプロパー融資と比較して、スムーズに資金調達が可能です。
信用保証を受けた融資の返済が滞った場合、信用保証協会が肩代わりします。信用保証協会の保証には、
- 保証によって融資が受けやすくなる
- 保証人・担保が必要ない
というメリットがあります。
その反面、
- 代位弁済があっても融資による債務は残る
- 必ずしも融資が受けられるわけではない
というデメリットがあります。
資金調達方法④ クレジットカード
クレジットカードは、さまざまな決済を後払いにできる特徴があります。また、キャッシング機能を活用した資金調達も可能です。クレジットカードには
- 後払いの活用によって資金繰りが改善する
- キャッシング機能によるスピーディーな資金調達が可
というメリットがあります。
その反面、
- フリーランスは収入が不安定なため審査に通りにくい
- キャッシングの利率は金融機関の融資に比べて割高
というデメリットがあります。
資金調達方法⑤ カードローン
カードローンは、個人の生活費向けの商品の他にも、事業資金として活用できる商品が存在します。
ただし、金融機関系のカードローンは即日融資に対応できないものが多く、急ぎの資金調達では消費者金融系のカードローンを利用することが前提となります。カードローンには、
- スピーディーでタイムリーな資金調達が可能となる
- 担保・保証人が不要で限度額内で自由に借入が可能
というメリットがあります。その反面、
- 事業資金に対応しているカードローンが少ない
- キャッシングと同様に、利率は金融機関の融資に比べて割高
というデメリットがあります。
資金調達方法⑥ 消費者金融
消費者金融は、ノンバンクとも呼ばれ銀行以外の金融業者を指します。消費者金融には
- 審査が早い
- 最短即日で融資が受けられる
というメリットがあります。その反面、
- 貸金業法の総量規制に基づき、借入可能額は年収の3分の1以内に制限されている
- 金融機関の融資に比べて利率が高い
などのデメリットがあります。
資金調達方法⑦ クラウドファンディング
クラウドファンディングは、不特定多数の人を対象にインターネット上で支援を募り、資金を調達する方法のことをいいます。
クラウドファンディングで資金を調達するには、事業の内容や熱意について支援者に対してプレゼンする必要があります。効果的にPRし多くの目にとまれば、多額の出資を受けることができます。クラウドファンディングには、
- 資金調達のために審査を受ける必要がない
- スピード感のある資金調達が可能
というメリットがあります。その反面、
- 事業開始前に不特定多数の人に見られることで、事業内容を模倣される可能性がある
- プラットフォーム会社に対して手数料を支払う必要がある
などのデメリットもあります。
資金調達方法⑧ 補助金や助成金
補助金・助成金は、政府や自治体が提供する制度を活用して資金を調達する方法です。
補助金は経済産業省が管轄しており、倍率の高い審査を通過する必要があるため、需給が難しい場合もあります。助成金は厚生労働省が管轄しており、社会保険や雇用保険の加入などの条件を満たしていれば基本的に受け取ることが可能です。補助金・助成金には、
- 融資と異なり返済が不要
- 経営への介入が少ない
というメリットがあります。その反面、
- 申請期間が決まっている
- 倍率の高い審査がある
- 申請から受給までに時間がかかる
といったデメリットがあります。
お金のプロがおすすめする資金調達方法3選
ここでは、お金のプロがおすすめする資金調達方法を3つ紹介します。
- 日本政策金融公庫
- 自治体の制度融資
- 補助金や助成金
上記は、特徴やメリット・デメリットがそれぞれ異なります。以下で詳しく説明していきます。
おすすめの資金調達方法① 日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は中小企業の支援を目的とした、民間金融機関を補完する公的機関です。
そのため、新たに事業を始める方や事業を開始して間もない方に対しても積極的に融資をしてくれます。民間金融機関と比較して低利である他、審査のハードルも低く、実績が無くとも事業計画の実現可能性や事業にかける熱意に着目して審査をしてくれます。
また、原則無担保・無保証であり、余裕のある返済計画を立てられる点も特徴です。新たに事業を始める方や事業を開始して間もない方は実績がなく、民間金融機関の融資を受けにくいため、こうした方にとって非常に頼りになる融資制度です。
おすすめの資金調達方法② 自治体の制度融資
自治体の制度融資は、国や都道府県など地方自治体が独自の融資制度を作り、条件を満たした事業者が利用できる信用保証協会付の融資制度です。
自治体の制度融資は、信用保証協会融資の一種でありますが、他の保証付融資とは異なり
- 自治体
- 信用保証協会
- 金融機関
の3者が窓口となります。自治体の制度融資は、中小企業が円滑に資金調達できるように、条例などで特別な融資制度を創設し、日本政策金融公庫と同等の待遇を提供することがあります。
このように、自治体の制度融資は、中小企業が有利な条件で利用できるように設計されています。
補助金や助成金は、返済義務のない資金調達方法で国や地方自治体が主催しています。
ただし、それぞれに主導する省庁や実施目的に違いがあります。補助金制度は、経済産業省が主導し実施しています。中小企業の活性化を目的とし、補助金制度の条件を満たす事業主は申請して、審査を通過すると補助金を受け取ることができます。
補助金制度によっては、創業間もない事業者を対象とした「創業枠」も存在します。一方、助成金制度は、厚生労働省が主導し実施しています。労働環境の改善や雇用対策を目的とし、助成金制度の条件を満たす事業主は、審査を経ずに申請するだけで受け取ることができます。
ケース別の資金調達方法3選
ここでは、ケース別の資金調達方法を3つ紹介します。企業にとって最適な資金調達方法は、ケースによって異なります。
資金調達方法の特徴を把握して、自社の状況に最適な方法を選択するようにしましょう。以下で詳しく説明していきます。
低金利の融資を受けたい場合:日本政策金融公庫
低金利の融資を受けたい場合には、日本政策金融公庫がおすすめです。
日本政策金融公庫は、前述の通り中小企業向けの融資機関であり、低金利で融資を受けることができます。また、返済期間も長めに設定されているため、毎月の返済負担を減らすことができます。日本政策金融公庫からの融資は、メリットが多くデメリットがほぼないため最もおすすめです。
スピーディーな融資が必要な場合:ビジネスローンやカードローン
スピーディーな融資が必要な場合には、ビジネスローンやカードローンがおすすめです。
ビジネスローンやカードローンは、審査が早く比較的簡単に融資を受けることができます。商品の種類によっては最短で即日融資も可能です。しかし、金利が高い場合もあるため、返済計画をしっかりと立てる必要があります。
返済不要を希望の場合:補助金や助成金など
返済不要を希望する場合には、補助金や助成金などを活用することができます。
補助金や助成金は、事業を行う上で必要な費用に対して補助・助成が行われ、返済義務がありません。また、制度によっては「創業枠」や「DX枠」などもあり、幅広い内容で申請することが可能です。ただし、申請要件の確認や手続きなどが繁雑であり、補助金の入金に時間がかかる場合もあるため、早めに対応することが大切です。
資金繰りに失敗しないために今からやってくべきこと
ここでは、資金繰りに失敗しないために今からやっておくべきことについて解説します。
黒字経営であっても、資金繰りに失敗すれば倒産してしまうケースもあります。以下の内容を参考に、いつでも資金調達ができる状態をつくっておくようにしましょう。
銀行との信頼関係を構築しておく
銀行との信頼関係を構築しておくことで、急な資金需要が発生した際にも円滑な資金調達が可能となります。
信頼関係を構築するためには、自社の状況を誠実に説明するようにしましょう。銀行の担当者は、必ずしも自社の業界に詳しいとは限りません。
そのため、自社の業界特性や業界内のポジション、競争優位性となる強みなどを説明し、日頃から自社に対する理解を深めてもらうように働き掛けることが重要です。以下では、銀行と信頼関係を構築する上でのポイントについて紹介します。
銀行との信頼関係を構築するためには、事業計画をしっかりと練っておきましょう。
事業計画とは、今後の経営方針や利益計画について、具体的な施策を挙げて道筋をつけための書類です。事業計画は自社の経営方針のみならず、銀行との信頼関係の構築に対してもプラスの影響を与えます。
銀行の融資審査においては、事業計画の内容から企業の将来性を判断して、融資可否を決定するケースも少なくありません。そのため、客観的かつ実現可能性の高い事業計画書を作成しておくことで、融資審査もスムーズに通過する可能性が高まります。
銀行との信頼関係を構築するためには、試算表を毎月提出しましょう。
試算表によって自社の状況をタイムリーに伝えることで、銀行側も自社の業績を把握するだけではなく、業績の変化についても敏感になります。日頃の業況報告をしっかり行うことで、急な資金需要に対してもスピーディーな対応をしてもらえる可能性が高まります。
銀行との信頼関係を構築するためには、自己資金を貯めておくことも重要です。
銀行から融資を受ける場合、制度によっては一定の自己資金を準備する必要があります。金融機関から融資を受ける際は、自己資金のほかにも経験や実績などの項目から総合的に審査がおこなわれるため、自己資金があるからといって必ずしも融資を受けられるとは限りません。しかし、自己資金の金額は審査項目のひとつであるため、十分に留意しておきましょう。
銀行との信頼関係を構築するためには、マイナス評価となる勘定科目をつくらないことも重要です。
7売上の規模に対して不自然に高額な交際接待費や、観光旅行に行っているのに出張費として計上している場合、銀行の担当者からは事業とプライベートを混同しているのではないかと疑念を抱かれます。
また、自宅兼事務所で事業を営んでいる場合、通信費や電気代などは事業とプライベートで按分計上する必要があります。これらを全額費用計上してしまっている場合、正しい会計処理をしていないと見られてしまうため注意が必要です。
ビジネス用の口座をつくっておく
ビジネス用の口座を開設することも、資金繰りで失敗しないためには重要です。
個人事業主の場合、事業とプライベートのお金の動きが混同しがちです。これは、正確な会計帳簿を歪めてしまうだけではなく、正しいお金の流れが把握できなくなり、資金繰りを誤ってしまう要因の1つとなります。
ビジネス用の口座を開設し、お金の動きの透明性を高めることで、正確な資金繰りが可能となるだけでなく、銀行の担当者からの評価も高めることができるでしょう。
ビジネス用のクレジットカードをつくっておく
ビジネス用のクレジットカードをつくっておくことも、資金繰りで失敗しないためには重要です。
ビジネス用のクレジットカードをつくっておくことで、支払サイクルが遅れるためキャッシュフローが改善される効果が得られます。また、ビジネス用のクレジットカードにはキャッシング機能もついているため、いざという時の資金調達方法の1つにもなります。
日々のお金の動きを把握し、正確な資金繰りを行っていた場合でも、突発的に資金が必要となるケースは発生します。いざ資金調達を行おうとしても、融資の実行までには時間がかかる場合もあるため、必要なタイミングに間に合う保証はありません。有事の際の備えとしても、ビジネス用のクレジットカードは有用でしょう。
まとめ
本記事では、個人事業主の資金調達方法や、おすすめの資金調達方法について解説しました。
資金調達方法は、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なります。
低金利の融資を希望するのか、スピーディーな融資を希望するのか、返済不要の資金調達を希望するのかによって選択肢は異なります。
資金調達方法の特徴を把握して、自社の状況に最適な方法を選択するようにしましょう。「資金の先生」では、資金調達や税金に関する相談を受け付けています。個人事業主として事業を営まれている方や、資金調達を考えている方は、ぜひ相談してみてください。