副業による所得は、雑所得や事業所得として確定申告を行うことが一般的です。
しかし、節税対策として合同会社を設立し法人の収益として申告することも可能です。
それでは、副業収入のあるサラリーマンが合同会社を設立する際には、どのような点に注意すると良いのでしょうか。
また、サラリーマンであっても合同会社に出資することは可能なのでしょうか。
本記事では、合同会社の設立のポイントやメリット・デメリットについて解説します。
サラリーマンで副業による収入がある方や、合同会社の設立を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
サラリーマンが合同会社を設立する方法
ここでは、サラリーマンが合同会社を設立すべきタイミングや必要な手続き・書類などについて解説していきます。
合同会社への出資は給与所得のあるサラリーマンでも可能です。合同会社の設立の際には、適切なタイミングを見極めるようにしましょう。
合同会社を設立するタイミング
合同会社を設立するタイミングは、事業による利益が一定の金額に達した際に検討することが一般的です。
これは、副業収入のあるサラリーマンが合同会社の設立を考える理由の大半が節税を目的としており、個人事業主が支払う所得税と法人が支払う法人税とでは、税率や計算方法が異なるためです。
合同会社を設立するタイミングの考え方の一つとして、下記に記載する所得税と法人税の速算表を参考に、所得税の税率が法人税の税率を上回ったときに会社設立を検討するとよいでしょう。
個人の所得税・住民税・事業税と、法人の実効税率(法人税に法人住民税と法人事業税を加味した全体的な税率)を用いた税金の額とを比較すると、所得金額330万円を超えるか否かが目安となります。
ただし、合同会社を設立すべきタイミングは個々のケースによって異なるため、税負担だけではなく事業そのものの運営や社会保険の加入などを含め総合的に検討しましょう。
これらの比較検討には専門知識が必要となるため、税理士を始めとする専門家への相談をおすすめします。
平成27年以降分の所得税速算表
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで |
5% |
0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで |
10% |
97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで |
20% |
427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで |
23% |
636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円 以上 |
45% |
4,796,000円 |
(出所:国税庁HPよhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
平成31年以降の普通法人の法人税率
区分 |
適用関係(開始事業年度) |
||||||
平28.4.1以後 |
平30.4.1以後 |
平31.4.1以後 |
令4.4.1以後 |
||||
普通法人 |
資本金1億円以下の法人など(注1) |
年800万円以下の部分 |
下記以外の法人 |
15% |
15% |
15% |
15% |
適用除外事業者(注2) |
19%(注3) |
19%(注3) |
|||||
年800万円超の部分 |
23.40% |
23.20% |
23.20% |
23.20% |
|||
上記以外の普通法人 |
23.40% |
23.20% |
23.20% |
23.20% |
(出所:国税庁HPより https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
合同会社の設立に必要な手続き
合同会社を設立に必要な手続きは下表の通りです。
個人事業と異なり、合同会社の設立にはさまざまな手続きが必要となります。書類の提出先や提出期限を一つ一つ確認するようにしましょう。
提出先 |
手続き |
必須・任意 |
提出期限 |
税務署 |
必須 |
設立から2カ月以内 |
|
給与支払事務所等の開設届出書 |
必要に応じて |
給与支払いを行う事務所などの開設から1カ月以内 |
|
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
任意 |
期限の定めなし |
|
消費税の新設法人に該当する旨の届出書 |
必要に応じて |
すみやかに |
|
消費税課税事業者届出書 |
必須 |
すみやかに |
|
青色申告の承認申請書 |
任意 |
設立から3カ月を経過した日の前日、第1期の事業年度終了日の前日のいずれか早い日 |
|
都道府県税事務所 |
法人設立届出書 |
必須 |
設立後おおむね1カ月以内 |
市町村役場 |
法人設立届出書 |
必須 |
設立後おおむね1カ月以内と |
年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 |
必須 |
事実発生から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 |
必要に応じて |
事実発生から5日以内 |
|
ハローワーク |
雇用保険適用事業所設置届 |
必要に応じて |
適用事業所になった翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 |
必要に応じて |
雇用日の翌月10日まで |
|
労働基準監督署 |
適用事業報告書 |
必要に応じて |
すみやかに |
労働保険 保険関係成立届 |
必要に応じて |
保険関係の成立の翌日から10日以内 |
|
労働保険 概算保険料申告書 |
必要に応じて |
保険関係の成立の翌日から50日以内 |
|
労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書 |
必要に応じて |
期限の定めなし |
|
金融機関 |
新規届出書 |
必要に応じて |
口座開設時 |
合同会社を設立する際に必要な書類
合同会社を設立する際に必要な書類は下記の通りです。
- 登記申請書
- 登録免許税の収入印紙を貼り付けた台紙
- 登記すべき事項を保存したCD-R
- 定款
- 取締役の就任承諾書
- 印鑑届出書
- 払込証明書(資本金や出資金の払い込みを証明するもの)
サラリーマンの副業による法人設立であっても、一般的な会社設立と同様に法務局での登記手続きが必要となります。
上記は、法務局での登記手続きにおいて、すべての会社に共通して必要となる書類です。
その他、取締役会を設置しない場合は取締役全員の印鑑証明書、合同会社設立時は合同会社設立登記申請書が必要となります。
法人の形態や定款の内容によって追加書類が必要な場合もあるため、登記手続きを行う法務局へ事前に確認するとよいでしょう。
サラリーマンでも出資は可能なのか
給与所得のあるサラリーマンであっても、合同会社の設立・出資は可能です。
ただし、勤務先の就業規則によっては、社員のプライベートカンパニーの設立や、他の法人の役員となることを禁止している場合があります。
サラリーマンとして合同会社を設立する際には、自身の勤務先の就業規則も必ず確認するようにしましょう。
合同会社を設立するメリット
合同会社を設立するメリットは主に6つあります。ここでは、それぞれについて解説していきます。
役員報酬を経費として計上できる
法人成りには、自身の給与である役員報酬を経費として計上できるメリットがあります。
役員報酬は、所得税の計算において給与所得控除が適用されるため、全体の所得を減らすことが可能となり節税効果があります。
役員への退職金が経費として計上できる
個人事業主であっても、一定の要件を満たすことで、従業員への給料や賞与を経費として計上できます。
しかし、自身の給与や退職金は必要経費に計上できません。
法人成りをすることで、役員への退職金も原則として損金計上が認められます。その結果、法人所得を圧縮し節税効果を得ることが可能です。
欠損金の繰越控除可能期間が長期になる
青色申告の個人事業主の場合、事業の赤字による欠損金を翌年以降に繰越し、翌年以降の事業所得と相殺することができますが、繰越期限は翌年以降3年間とされています。
一方、法人成りをした場合、欠損金の繰越控除可能期間は10年と長期になります。欠損金額が大きい場合、繰越控除可能期間が長期になることで高い節税効果を得られます。
消費税の課税事業者となるタイミングを遅らせることができる
前述の通り、個人事業者として消費税の課税事業者になるタイミングで法人化すると、課税事業者になるタイミングを最長2年間遅らせることができます。
その結果、納税負担を減らせるというメリットを受けられます。
消費税の納税事業者か否かの判定は、まず2年前の売上高に着目します。
個人と法人は別人格であるため、法人設立1年目は2年前や1年前の期間がなく納税判定対象期間の課税売上高が存在しません。
設立2年目は前年の売上高は存在しますが、前年前半6カ月の課税売上高等が1,000万円を超えなければ免税事業者となります。
ただし、資本金1,000万円未満で法人設立した場合に限られる点に注意が必要です。
社会的信用度が上がる
法人の方が個人事業主に比べて社会的信用度が高く、取引先を法人に限定している会社もあります。
法人成りによって、取引先の社会的信用度が上がり仕事の幅が広がります。
また、金融機関から融資を受ける際も、法人成りによって信用力が上がり、円滑な資金調達に繋げることができるメリットがあります。
有限責任となる
個人事業主の場合、経営悪化時の「仕入先への買掛金」「金融機関からの借入金」「滞納している税金」などは、全て個人の負債として背負うことになります。
しかし、法人成りによって株式会社や合同会社となった場合、個人保証による借入金を除けば出資金の範囲内の有限責任となります。
合同会社を設立するデメリット
合同会社を設立するデメリットは主に3つあります。ここでは、それぞれについて解説していきます。
合同会社の設立に手間と費用がかかる
個人事業主の場合、許認可が必要な業種でなければ、税務署と都道府県に対して開業届を提出するだけで手続きが完了するため、手間も少なく費用もかかりません。
これに対して、合同会社を設立する場合、定款を定めて公証役場で認証を受け、法務局で法人設立の登記を行う必要があります。
これらの手続きにおいては、定款認証手数料や登録免許税などが発生します。
また、司法書士等の専門家へ手続きを依頼する場合、さらに追加で費用が発生します。
社会保険への加入義務が発生する
合同会社の設立には、社会保険料の支払い負担や、手続き等の事務負担が増えるというデメリットがあります。
個人事業主の場合、従業員が4人以内であれば健康保険・厚生年金への加入義務はありません。
一方、合同会社の場合、従業員の人数にかかわらず健康保険・厚生年金への加入が義務付けられます。
尚、労働保険は1人でも従業員を雇えば個人事業であっても加入義務が発生します。
赤字であっても法人住民税が発生する
個人事業主として納める所得税と、法人として納める法人税は、下表のように税制が異なります。
法人住民税には均等割と呼ばれる部分があるため、事業が赤字であっても年間7万円は最低限納付する必要があります。
個人事業 |
法人 |
・法人税 |
まとめ
本記事では、合同会社の設立のポイントやメリット・デメリットについて解説しました。
合同会社の設立はサラリーマンであっても可能です。副業による利益の金額を目安として、合同会社の設立に最適なタイミングを見極めるようにしましょう。
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