資本金1,000万円以下、従業員数が少ない小規模な法人であるマイクロ法人。役員報酬を経費計上することで所得税や住民税を軽減できたり、社会保険料の負担を最適化できたりするメリットがあり、ある程度収益のある個人事業主が法人化すると、大きなメリットがあります。マイクロ法人とはなんなのか、メリットやデメリット、おすすめの職種などについてはこちらの記事で詳しくご紹介しました。
今回の記事では、具体的にマイクロ法人はどうやって設立するか、わかりやすく解説。マイクロ法人の立ち上げを考えている人は、一通り目を通すことをおすすめします!
目次
マイクロ法人の設立手続きの流れ
マイクロ法人の設立手続きは、一般的な法人(株式会社)の設立手続きと同じ流れを踏みますが、事業規模が小さいためシンプルに進められるケースが多いです。以下に具体的な手順に沿って詳しく解説していきます。
手順① :法人の基本事項を決める
法人を設立する前に、まず以下の基本情報を決定しましょう。この基本情報は、手順⑤の「設立登記申請書」でも記載する内容です。はじめにしっかり考えておくようにしましょう。
・会社名(商号)
漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットが使えます。
同じ住所でなければ、他の会社と同じ名前でも問題ありません。
・本店所在地
自宅でも可能ですが、賃貸の場合は契約内容を確認する必要があります。
・事業目的
法人が行う予定の事業内容を具体的に記載します。複数の事業を書くことも可能です。
・資本金の額
最低1円から設立可能ですが、事業の信用力を考慮して10〜100万円程度にするのが一般的です。
・役員構成
自分1人で行う場合は「取締役1名」のみでOKです。
・事業年度(決算期)
通常、年度末を3月または6月に設定することが多いですが、事業に適した時期を選びましょう。
手順②:定款(ていかん)を作成する
定款は会社の基本ルールを定めた文書のことです。以下の内容を記載します。
・会社名(商号)
・本店所在地
・事業目的
・資本金の額
・発行する株式の内容
・役員の任期など
<定款作成のポイント>
紙定款で作成するか、電子定款で作成するかを選びます。電子定款の場合は印紙税(4万円)が不要になるため、費用を少し抑えることができます。なお電子定款を作成する場合は、行政書士や司法書士に依頼するか、専用ソフトを使用するのがおすすめです。
手順③:定款の認証を受ける
次に、手順②で作成した定款を公証役場に持参して公証人による認証を受けます。
その際に必要な書類は以下の通りです。
・定款(紙または電子)
・印鑑証明書(発起人分)
・発起人の身分証明書
・認証手数料(5万円)なお、認証手数料として5万円、紙での定款の場合は印紙税4万円も必要となります(電子定款の場合は不要)。
手順④:資本金を払い込む
定款で定めた資本金を、発起人(設立者)名義の個人口座に入金します。
登記の際に証明となるものが必要となるので、振込後は通帳のコピーまたは振込明細書を準備しておきましょう。
手順⑤:設立登記の申請
次はいよいよ、会社設立の登記を行います。会社の登記に必要な「設立登記申請書」を法務局へ提出するか、オンラインでも申請が可能です。法務局へ提出する場合は、会社の所在地に基づいた管轄の法務局で行います。管轄の法務局は、法務省の公式ウェブサイトにて検索できます。
なお、登記の際は登録免許税(15万円または資本金の0.7%)を支払う必要がありますので準備しておきましょう。申請書が受理され、問題がなければ登記は完了。法人設立が正式に認められます。
会社登記の際に必要な書類は以下の通りです。
・設立登記申請書(以下で詳しく解説します)
・定款(認証済みのもの)
・資本金の払込証明書(通帳のコピーなど)
・印鑑届書(法人の代表印を登録)
・発起人の印鑑証明書・登録免許税の納付台紙
<設立登記申請書に記載する内容>
「設立登記申請書」は法務局のホームページからダウンロードできます。会社の形態別に無料でPDFが提供されているので、法務局に行く前にダウンロードの上、あらかじめ記載しておきましょう。設立登記申請書は、法人設立のために最も重要な書類ですので、記載内容に誤りがないように十分確認することが大切です。
・法人名(商号)
設立する法人の名前を記載します。すでに他の法人と同じ名前が使われていないか確認が必要です。
・本店所在地
会社の本店(事務所)住所を記入します。自宅でもOKですが、賃貸の場合は契約内容に注意が必要です。
・設立の日付
法人設立の年月日を記入します。
・目的(事業内容)
会社が行う事業内容を記載します。事業目的は具体的に記載し、後から追加することもできますが、設立時に大まかな事業内容を記載する必要があります。
・資本金の額
法人設立時に出資する資本金の金額を記入します。最低1円から可能ですが、事業規模に合わせた額を設定します。
・発起人の氏名・住所
会社設立の際に発起人(設立を行う人)の氏名や住所を記載します。発起人は法人設立の責任者です。
・役員の氏名・住所
設立時の役員(取締役など)の氏名や住所を記載します。法人設立時に最低1名の取締役が必要です。
・代表取締役の氏名
会社の代表者となる取締役の氏名を記載します。
・定款の内容に関する事項
定款(会社の基本ルール)に基づいて、会社の目的、資本金、事業年度などを記載した事項の要約を記入します。
⑥法人設立後の手続き
設立登記が完了したら、以下の手続きを行いましょう。
・税務署に法人設立届を提出
「法人設立届出書」を提出します。青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」、役員報酬を支払う場合は「給与支払事務所等の開設届」も提出します。
・地方自治体に設立届を提出
都道府県税事務所、市区町村役場に提出しましょう。
・社会保険の加入
厚生年金や健康保険への加入手続きを行います。代表者1名でも加入が義務です。
・銀行口座の開設
法人口座を作成しましょう。
その際、「登記事項証明書」「定款」などをが必要となりますので、事前に用意しておきます。
・会社印の作成
代表印、銀行印、角印などを準備します。
⑦ランニングコストを確認
以上で手続き的なことは完了です。マイクロ法人運営には以下のコストがかかるので、設立前に予算を確認しておきましょう。
・均等割(法人住民税):年8〜9万円
・税理士費用:月1万〜3万円(依頼する場合)
・社会保険料:役員報酬に応じて変動
・その他費用:事務用品、通信費など
費用総額の目安
項目 | 費用 |
定款認証 | 約5万円(+印紙税4万円※) |
登録免許税 | 15万円 |
社会保険料初期費用 | 役員報酬により変動 |
均等割 | 年間8〜9万円 |
※電子定款を利用する場合は印紙税不要。
マイクロ法人を設立する時の注意点
マイクロ法人の設立に際しては、以下の注意点を押さえておくことが重要です。特に運営コストや税務・社会保険の義務に関して理解しておくことが大切。法人化したものの、節税はおろか、個人事業主時代よりコストが多くかかるようになってしまった、などということがないよう、事前にしっかりと確認しておきましょう。
法人設立・維持にかかるコスト
電子定款を利用しても、登録免許税や公証手数料を含め、設立費用には約20万円前後かかります。また、設立後のランニングコストとしては、「均等割(法人住民税)」が赤字でも最低年間8〜9万円が必要です。
また、会計ソフトや税理士費用、社会保険料などの固定費も発生する点は認識しておく必要があるでしょう。
税務関連の複雑さ
個人事業主とちがって、法人となると決算書の作成と法人税の申告が必要となります。個人事業主の確定申告に比べると手続きが複雑になるため、税理士に依頼する場合は追加費用が必要です。
また、資本金1000万円未満の法人は、設立後2年間は消費税が免除されますが、3年目以降は課税義務が発生するのでその点を見越しておく必要があります。
社会保険の加入義務
法人は、役員1名でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務があります。社会保険は負担額が大きいため、報酬額を調整するなど、適切な計画が必要です。
節税目的のリスク
マイクロ法人は上手に活用することで大きな節税効果を期待できますが、節税目的で役員報酬を不自然に低く設定したり、経費を過剰計上すると、税務調査で否認されるリスクがあることは認識しておきましょう。
法人では個人の生活費を経費に含められないため、注意が必要です。
信用力の課題
資本金の額が1円など小さい場合は、取引先や金融機関からの信用が低くなることがあります。事業計画に応じて適切な資本金を設定することが大切です。
会社清算時の手間
事業が停止した場合でも、法人を解散・清算するには追加の手続きと費用が必要となってきます。簡単に廃業できる個人事業主と比べると負担が大きくなるので注意が必要です。
節税効果の限界
節税効果が期待できるのは、事業の利益がある程度安定している場合です。利益が少ないと、設立費用やランニングコストの方が高くつく可能性があります。
本店所在地の選定
自宅を本店所在地にする場合、賃貸契約で事業利用が禁止されていないか確認が必要です。またバーチャルオフィスを利用する場合は、登記可能なサービスを選びましょう。
定款の作成
事業内容や運営ルールを定める定款を適切に作成しないと、後々事業の拡大や変更時に支障が出ることがあります。
まとめ
節税や社会保険の調整など多くのメリットがあるマイクロ法人ですが、設立や運営には一定のコストと手間がかかります。事業の規模や収益性を踏まえて、法人化が本当に適しているかを慎重に検討することが大切です。
設立に向けた専門的な手続きについては司法書士や行政書士、税理士に依頼すれば効率的に進めることも可能です。設立後の運営も見据えて、計画的に進めることをおすすめします。