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マイクロ法人で節税メリットが得られる収入(売上)ラインはどのくらい?個人事業主と副業サラリーマンのケースで詳しく解説

個人事業主や副業をしている人にとってさまざまなメリットがあるマイクロ法人の設立。特に、節税や社会保険料の最適化を目的として活用されることが多いですが、どのくらいの収入ならメリットを享受できるのでしょうか。今回の記事では、個人事業主の売上や副業サラリーマンの収入目安を具体的に解説します。

 

マイクロ法人化で節税できる税金とは

 ①所得税の軽減

所得税とは、個人が1年間(1月1日~12月31日)に得た所得(収入から経費や控除を差し引いたもの)に対して課される税金のこと。サラリーマン、副業をしている人、個人事業主などすべての人に適用され、売上や収入が多いほど高くなる累進課税方式が採用されており、最大で45%の税率となります。

個人が支払う「所得税」と法人が支払う「法人税」の違い

さて、この個人が支払う「所得税」に対して、会社(法人)が支払うのが「法人税」です。法人税は法人(会社)の利益に対して課される税金で、法人の所得に関係なく一定の税率で課税される比例課税方式を採用しており、基本税率は原則として23.2%。さらに中小企業に対しては特定の条件で税率が軽減される措置があり、たとえば課税所得が800万円以下の場合、15%の税率が適用されるなど、実質的な税負担の軽減が行われています。

つまり、個人事業主なら所得税として最大で45%かかるところが23%、もしくは15%となるため、利益が大きくなればなるほど、法人化で税率を下げられる可能性があることになります。

例)事業所得が500万円の場合

個人事業主→所得税+住民税 ≒ 20〜30%
法人(マイクロ法人) → 法人税 ≒ 15〜23%

②住民税の軽減

マイクロ法人化することで、住民税を軽減できるケースもあります。以下、具体的なケースを説明しましょう。

 所得分散による住民税の軽減

個人事業主の場合、所得に対して累進課税が適用されます。つまり、所得が増えると住民税も高くなり、最大で10%の住民税が課せられます。法人化することで、役員報酬と法人利益に分けて税金を支払うことができるため、住民税を軽減させることも可能なのです。

<住民税軽減の仕組みとは?>

法人の利益が少ない場合、法人税(15%〜23.2%)を支払うだけで済み、役員報酬も少額に設定することによって、個人で支払う住民税を抑えることが可能です。

たとえば個人事業主として年収500万円の場合、住民税が高くなることが予想されますが、法人化した上で役員報酬を年間100万円に設定すると、残りの利益は法人税(約15%)で課税されます。これにより、住民税の負担が軽減される可能性があります。

 青色申告特別控除と法人の経費

個人事業主の場合、最大65万円の青色申告特別控除を受けられますが、法人化すると法人が支払う法人税においてさまざまな経費を計上できるため、法人利益を圧縮することが可能。これによって法人住民税を抑え、法人の所得に基づく住民税の負担を減らせます。

 事業専従者の給与設定

法人化した場合、家族(配偶者や親族)を役員や従業員として雇用し、その給与を法人経費として計上できます。この給与は法人の経費として認められるため、法人利益を減らし、結果として住民税の負担も軽減されるケースがあります。

たとえば、法人において家族を役員や従業員として雇用し、月額5万円の給与を支払った場合、その給与は法人経費として認められ、法人税が軽減されることになります。これによって法人の利益が減り、法人税やそれに付随する住民税の負担が軽減されるとともに、家族の住民税も低く抑えられる可能性があります。

法人税の軽減措置の利用

中小企業には法人税の軽減措置があり、課税所得が800万円以下の場合、法人税率が15%に抑えられます。これにより、法人化することで所得が分散され、税金全体(法人税および住民税)が軽減される場合があります。

たとえば課税所得が800万円以下の法人なら、個人事業主として500万円を超える所得があった場合よりも、法人化した場合の法人税の負担が軽くなります。

 法人の利益の一部を留保する

役員報酬を低く設定し、法人の利益を留保することで法人が支払う法人税を抑え、個人の住民税を軽減することが可能です。この留保した利益には法人税が課せられるものの、個人の住民税には影響しないため、住民税の負担を調整できます

 

③社会保険料

自分を法人の役員として報酬を設定することで、社会保険料(健康保険・厚生年金)をコントロールできます。社会保険料は役員報酬をもとに計算されるため、報酬額を低く設定することで、社会保険料の負担を減らすことも可能です。

役員報酬の設定で注意すべきポイント

ただし、以下の点に注意する必要があります。

・最低報酬額を守る

役員報酬を極端に低く設定すると、「最低限の報酬額」を下回ることがあります。最低報酬額は、実務上の目安は月額10万円程度。それ以下だと、税務署や社会保険事務所から指摘を受ける可能性があるため、注意が必要です。

・社会保険料の負担を軽減するための報酬設定

社会保険料は、報酬額に応じて比例して増加します。つまり、報酬を低く設定すれば、社会保険料を抑えられます

たとえば、役員報酬が月額20万円の場合の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)についておおよその金額を計算してみます。ただ具体的な金額は、保険料率や会社の所在地、加入する健康保険組合(協会けんぽなど)によって異なるため、目安として参考にしてください。

健康保険料(東京都の協会けんぽの場合)

健康保険料率は9.15%
健康保険料 = 10万円 × 9.15% = 9,150円
※会社と従業員(役員)で折半するため、個人の負担額は4,575円。

厚生年金保険料

厚生年金の保険料率は18.3%
厚生年金保険料 = 10万円 × 18.3% = 18,300円
※会社と従業員で折半するため、各自の負担額は9,150円

・報酬の増減に注意

役員報酬を適切に設定し、毎月一定の額を支払うことで、社会保険料が安定的に予測できます。報酬を急に上げたり下げたりすると、社会保険料が予測外に増減することがあるため、注意しましょう。

具体的な金額設定の目安

  • 月額報酬15万円〜20万円:社会保険料を抑えながらも、生活に必要な額を確保できる範囲。
  • 月額20万円〜30万円:安定して生活費を支えつつ、社会保険料の調整がしやすい範囲。

この範囲内で報酬を設定することで、過度に高い社会保険料を回避しつつ、社会保険制度のメリット(年金、医療保険など)を享受することができます。

ただし、最低限の報酬額や税務署からの指摘を避けるために、極端に低く設定しないように注意してください。また、役員報酬の設定については、税理士に相談して、最適な金額を決めると安心です。

 

マイクロ法人化すると節税できる収入の目安は?

では具体的に収入がいくら以上ならマイクロ法人を活用した節税メリットが得られるのでしょうか。具体的な金額を見ていきましょう。

①300万円以上の収入でマイクロ法人設立のメリットが大きくなる理由

一般的には年間300万円以上の事業所得(売上から経費を引いた利益)がある場合が一つの目安と言われています。理由は以下のとおりです。

法人税の低税率(15%)を活用できる

前述したように法人の年間利益が800万円以下なら、法人税率は15%に抑えられるため、所得税(最大45%)よりも低くなります。

社会保険料の調整

自分を法人の役員として報酬を設定することで、社会保険料をコントロールできます。前述したように役員報酬を低めに設定することで、健康保険や厚生年金などの社会保険料の負担を軽減できます。

経費として多くの費用を計上できる

家賃、通信費、交通費などを法人の経費として計上できるため、税金の計算上、課税所得を減らすことができます。これにより、税負担を軽くすることができます。

消費税の免税期間を活用

売上が1,000万円以下の場合、法人設立から最初の2年間は消費税が免税となるため、税負担を減らすことができます。

 

②収入が500万円以上の場合

年間500万円以上の収入があれば、法人化した際の節税メリットがさらに強くなります。

給与所得控除や経費計上を活用しやすく、法人税(最大23.2%)が適用されるため、所得税の高い累進課税(最大45%)に比べて大きな節税が可能になります。

 

③収入が300万円未満の場合

副収入が100万円〜300万円未満の場合、個人事業主としての税務処理の方が簡単であり、法人設立にかかるコストや手間を考慮すると、法人化のメリットがあまり大きくないこともあります。以下がその理由です。

設立・維持コストがかかる

法人設立には必要な初期費用(登記費用、税理士報酬、会計ソフト費用など)や、法人維持にかかる年間費用(税理士への報酬、法人税申告費用など)が発生します。これらのコストが、年間の収入が少ない場合、節税効果を上回ってしまう可能性が高くなります。たとえば、収入が100万円未満だと、法人設立のコストを回収するのに時間がかかります。

役員報酬の調整に限界がある

法人から役員報酬を受け取ることで経費として扱うことができますが、役員報酬を極端に低く設定しなければならない場合があります。役員報酬が少ないと、社会保険料(健康保険、厚生年金)の負担が軽減される一方で、生活費を確保しにくくなるという問題も無視はできません。これでは法人を設立しても、収入が少ないため、税制面でのメリットを十分に享受できない場合が多くなり本末転倒です。

法人税のメリットが小さい

法人税は基本的に所得が800万円以下なら15%に設定されていますが、300万円以下の収入では、法人税率(15%)と個人の所得税率(最大5%)に大きな差があるわけではありません。つまり、法人設立後の税負担が低くても、元々の収入が少ないため、税金を大きく節約する効果が薄いのです。

経費計上のメリットが少ない

法人を設立すると家賃や通信費、交通費などを経費として計上できますが、収入が少ないと、経費を計上する余地が限られてきます。

経費として計上できる項目が少ないと、法人化しても節税効果が十分に発揮されにくくなるのです。

  

マイクロ法人化するべきサラリーマンの副業収入目安は?

①マイクロ法人設立の目安

個人事業主と同じで、一般的には副業収入が年間300万円以上になると、マイクロ法人を設立するメリットが大きくなります。

理由としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 300万円以上なら「給与」として支払い、社会保険料を削減できる可能性がある
  • 事業経費を適切に計上できるため、税負担を抑えられる
  • 副業収入が100万円~300万円程度の場合は、法人化しないほうがシンプルで有利なことが多い

メリットを受けられる副業収入の目安金額は以下のとおりです。

マイクロ法人設立の目安

副業収入マイクロ法人設立のメリット
〜100万円個人事業主のままでOK(手続きコストがかかるため)
100万〜300万円ケースによる(個人事業主のほうが簡単)
300万〜500万円マイクロ法人のメリットが出始める(社会保険料・税金対策)
500万円以上マイクロ法人を作ると節税効果が大きくなる

②副業サラリーマンがマイクロ法人を立ち上げる注意点

サラリーマンが副業でマイクロ法人を立ち上げる際の節税に関する注意点をいくつか挙げます。法人化することで節税効果を得られますが、以下の点に注意する必要があります。

役員報酬の設定に注意

役員報酬は、法人の経費として計上され、税金を軽減するために重要な要素です。しかし、報酬額が高すぎると社会保険料(健康保険や厚生年金)の負担が増えるため、慎重に設定しましょう。逆に、低すぎると生活費が確保できなくなります。

報酬額と社会保険料のバランスを取る

役員報酬を低く設定すれば、社会保険料を抑えられますが、低すぎると年金や健康保険の受け取り額が少なくなることもあるため、慎重に設定しましょう。

副業所得と本業の税務上の取り扱いに注意

サラリーマンとしての所得と副業の法人所得を合わせた税金が膨らまないよう、副業の利益が大きすぎる場合は注意が必要です。法人化によって所得が増えすぎると、所得税の累進課税(最大45%)が影響してくることがあります。

給与所得と法人所得を分ける

サラリーマンとしての給与所得はそのまま課税されます。副業で得た法人の利益が多くなる場合、法人化することで法人税(15%〜23.2%)が適用され、税負担が軽くなるため、給与と法人所得を分けて税負担を調整することが重要です。

必要経費の計上に注意

法人化することで、家賃や光熱費、通信費、交通費などの個人事業主として計上できない経費を法人で計上できるため、利益を圧縮できます。ただし、これらの経費が法人活動に必要であることを証明する必要があり、適正な経費計上を行わないと税務署に指摘される可能性があるため、注意が必要です。

法人設立後の税務申告に注意

法人を設立すると、毎年の決算・法人税申告が必要です。サラリーマンの本業と副業(法人)の税務処理は別々に行う必要があり、申告漏れや誤りがないよう注意しなくてはなりません。

法人設立後は税理士への相談が必要

法人化することで、税務や経理の手間が増えるため、税理士に依頼するか、自分で会計処理を行う場合も十分に理解しておくことが重要です。

消費税の免税期間に注意

マイクロ法人では、設立から売上が1,000万円以下の場合、消費税が免税となります。しかし、売上が1,000万円を超えた場合は、消費税の申告義務が発生します。消費税の課税業者になるタイミングに注意しましょう。

副業が会社(本業)の規定に違反していないか注意

副業で法人を設立する際は、サラリーマンとして勤務している会社の就業規則や契約書を確認し、副業が許可されているか、または制限があるか確認することが重要です。

 

まとめ

今回はマイクロ法人の設立で節税が可能になる収入ラインについて解説しました。マイクロ法人化の節税メリットを享受できるのは、「事業所得が300万円以上」が目安。300万円以下の場合は法人設立にかかるコスト(設立費用や維持費用)が節税効果を上回ってしまう可能性が高くなり、法人化するメリットが薄くなるため、個人事業主のままで運営した方がシンプルで経済的です。

収入がもう少し増えてくると、法人設立による税負担軽減や社会保険料の最適化がしやすくなるため、法人化を検討しやすくなるといえるでしょう。

収入が500万円以上の場合、マイクロ法人を活用することで法人税を低く抑え、経費計上による節税がより効果的になります。年間300万円以上の事業所得がある個人事業主、年間300万円以上の副業収入があるサラリーマンは、マイクロ法人を設立すると節税効果が得られるケースがあるので、検討してみてはいかがでしょうか。

なお、法人登記はしたものの、実際の事業活動を行わないいわゆるペーパーカンパニーは脱税とみなされ違法となるリスクがあるため、マイクロ法人化するときには注意が必要です。