個人が小規模な事業活動を行うために設立する「マイクロ法人」。節税や社会保険料の負担軽減などのメリットが得られる場合があり注目を集めていますが、個人事業主だけではなく実はサラリーマンでもマイクロ法人は設立できるとご存知でしたか。ただしいくつかの条件や注意点があるので、詳しく解説します。
目次
マイクロ法人設立のメリットや作り方をおさらい!
「マイクロ法人とは? メリット・デメリットのほか、法人化するべき個人事業主など詳しく解説!」の記事ではマイクロ法人について、「法人化を考える個人事業主必見! マイクロ法人の作り方を流れで詳しく解説」の記事では作り方も詳しくご紹介しました。
マイクロ法人化することにより、役員報酬を活用した給与所得控除や、事業に関連する支出の経費計上により、個人事業主よりも節税の幅が広がる可能性があることは上記記事でもお伝えした通りです。また、家族を役員にすることで所得を分散し、税負担を軽減することも可能。法人名義で契約や取引が行えるため、事業規模にかかわらず対外的な信頼感が高まります。さらに法人名義で資産を保有することで、事業用と個人用の資産を明確に区分でき、管理が効率化される点も大きなメリットといえるでしょう。
個人事業主だけではなく、サラリーマンでもマイクロ法人を設立できる!
一般的には個人事業主が設立することが多いマイクロ法人。しかし日本の法律では会社設立に職業制限はないため、実はサラリーマンでも設立することが可能です。
サラリーマンが副業としてマイクロ法人を設立することで、上でも触れたように法人所得を別枠で管理できるため、税制面や事業運営の効率化が期待されます。また、事業所得に関連する経費を法人の経費として計上できるため、節税のメリットが得られることも期待ができるでしょう。さらに、給与所得と法人所得を分けることで、所得税や住民税の負担を調整することも可能です。
「会社設立の資本金には多額の資金が必要なのでは?」と心配する人も少なくありませんが、合同会社や株式会社は1円以上の資本金を支払えば設立できます。
サラリーマンがマイクロ法人を設立する時の注意点は?
ただ、サラリーマンがマイクロ法人を設立する際には注意が必要です。注意点を以下で詳しく解説します。
1. 就業規則や副業規制の確認
会社員の場合、本業である勤務先の就業規則に副業や法人設立を制限する規定がある場合があります。勤務先の就業規則に副業禁止規定がある場合、設立した法人での活動が「副業」に該当すると問題になったり、法人設立自体が問題になったりする可能性も。副業が認められている場合でも、「競業避止義務」には注意が必要です。
競業避止義務とは
従業員が勤務先企業と競合する業務を行うことを制限する義務を指します。これは、雇用契約や就業規則に基づき、従業員が勤務先に不利益を与えないようにするためのルールです。
たとえば競業避止義務では、以下のような行為が制限される場合があります。
- ・同業他社での勤務:現在の勤務先と直接競合する企業で働くこと。
- ・自分で競合する事業を立ち上げること:勤務先と同じ業界や顧客層を対象にした事業を行うこと。
- ・機密情報の利用:勤務先で得たノウハウや顧客情報を利用して、競合する事業を行うこと。
つまり、勤務先と似た事業を運営したり、勤務中に副業として勤務先の業務と競合する活動を行ったり、本業で得た機密情報を副業に使ったりする行為は競業避止義務に違反します。くれぐれもそのようなことがないよう注意しましょう。
なお、競業避止義務に違反すると、
- ・勤務先からの損害賠償請求
- ・解雇や懲戒処分
- ・法的措置(契約違反として訴訟を起こされる場合)
というようなリスクがあることも、知っておきたいです。
ただし、競業避止義務には以下のような制限があり、無制限に適用されるわけではありません。
- ・合理性:禁止される競業行為の範囲が過度に広い場合、無効と判断されることがあります。
- ・期間の制限:退職後の競業避止義務は、通常、合理的な期間(例:1〜2年)でないと認められません。
- ・対象地域や業種の明確性:曖昧で広すぎる内容は無効になることがあります。
競業避止義務に該当するかどうかは、雇用契約や就業規則、具体的な状況に依存するため、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
就業規則に抵触しないか、事前にしっかりと確認しましょう。
2. 法人設立と事業活動の分離
勤務時間中に法人の業務を行うと、勤務先の信頼を損ねる可能性があります。また、上で説明した競業避止義務違反に問われるリスクもありますので、法人活動は、勤務時間外や休日に行い、明確に分けるようにしましょう。
3. 税務面での対応
法人設立後は、個人所得とは別に法人税、消費税(一定の条件下)、住民税の申告が必要です。経費計上や役員報酬の設定は、税理士と相談するなどして、適切に行うことが求められます。
4. 社会保険の加入義務
法人を設立し、代表取締役になると、厚生年金や健康保険の加入義務が発生する場合があります。勤務先での社会保険と二重加入になる可能性があるため、詳細な確認が必要です。
5. 運営コストと管理の負担
法人設立後は、毎年の決算報告、税務申告、帳簿管理などが必要です。小規模な法人でもこれらの手間やコストが発生するため、事業の収益性と比較して負担に見合うかを判断する必要があります。
具体的には以下のようなコストがかかります。
①法人設立時の初期費用
・登録免許税:合同会社なら6万円、株式会社なら15万円。
・定款認証費用(株式会社のみ):約5万円(公証役場での認証)。
・印鑑作成費用:数千円~1万円程度。
・司法書士や行政書士への依頼費用(任意):数万円~10万円程度。
・初期費用合計:合同会社で約6~10万円、株式会社で約15~20万円。
②年間の維持費用
・法定費用
・法人住民税:毎年最低7万円(赤字でも必須)。
・法人税:利益に応じて課税される(利益がなければ不要)。
・社会保険料:法人の代表取締役は、健康保険と厚生年金に加入する義務があります。月額の負担は数万~10万円程度(給与額により変動)。
・運営に伴う経費
・税理士費用(任意):年間10~30万円程度(決算や申告を依頼する場合)。
・事務所費用(任意):自宅を使用すれば不要だが、レンタルオフィス等を利用する場合は月額数千円~数万円。
・会計ソフト利用料:月額1000~5000円程度。
③その他の費用
・銀行口座維持費(一部銀行で発生):月額数百円~数千円。
・取引に伴う経費:通信費や交際費など。法人運営に必要な支出。
・年間のコスト目安
・最低限の維持費(自分で申告を行い、事務所を自宅にする場合):10~20万円程度。
・外部委託を活用する場合(税理士やレンタルオフィス利用):20~50万円程度。
④信用リスクの管理
法人設立後の運営状況が悪化すると、法人の信用が損なわれるだけでなく、代表者個人の信用にも影響する場合があります。そのためリスク管理を徹底することが重要です。
⑤会社への影響を最小限に
勤務先に迷惑をかけないよう、法人の事業内容や活動が会社に影響を与えない形で運営することを心掛けましょう。
マイクロ法人設立に向いているサラリーマンの特徴は?
サラリーマンがマイクロ法人を設立できるかどうかは、勤務先の規則や個人の状況に大きく依存します。以下は、マイクロ法人を設立できる可能性が高いサラリーマンの特徴や条件です。
1. 勤務先が副業を許可している人
勤務先の就業規則に「副業禁止規定」がない、もしくは副業が許可されている会社に勤務しているサラリーマン。
また副業が許可されていなくても、事前に会社に許可を得られる人は、マイクロ法人を立ち上げやすいでしょう。
2. 勤務先の事業内容と競合しない事業を考えている人
競業避止義務に抵触しない事業(勤務先と競合しない事業内容)を考えている人は、マイクロ法人を立ち上げやすいです。
例:IT企業勤務の人が不動産管理会社を設立する等。
3. 勤務時間外に法人運営を行える人
本業に支障をきたさない範囲で法人業務を行えるタイムマネジメント能力がある人、また、休日やアフター5を活用して活動できる人もマイクロ法人設立に向いているといえるでしょう。
4. 資金的な余裕がある人
法人設立に必要な初期費用(数万〜十数万円)を負担でき、法人運営に伴う税務・社会保険の費用を賄える人は、マイクロ法人設立の条件といえます。
5. 法人運営の基礎知識を持っている、または学ぶ意欲がある人
法人化するには多少の知識が必要です。そのため法人の設立手続き、会計、税務、社会保険などの基礎知識を理解している人、また、専門家(税理士や行政書士)と相談しながら運営できる人が望ましいです。
6. 法人化によるメリットを最大化できる人
個人事業主や副業として行っているビジネスがあり、法人化することで節税効果や信頼性向上が期待できる人。また、年間の副業収入や利益が一定以上で、法人化による節税の恩恵が大きい人は、マイクロ法人設立がおすすめです。
7. 信頼関係を重視できる人
副業でのマイクロ法人立ち上げは、本業へ支障がないことが大前提です。そのため、勤務先に法人設立を報告して透明性を保つなど、トラブルを防ぐための行動を取れる、また勤務先の信頼を損なわないように慎重に事業運営を行えることが大切になってきます。
マイクロ法人を設立したサラリーマンの実例
以下にサラリーマンがマイクロ法人を立ち上げた実例をご紹介します。
1. ITエンジニアが副業でアプリ開発
本業はIT企業でエンジニアとして勤務していたAさん。勤務先の副業許可を得て、個人で開発したスマートフォンアプリを販売するためにマイクロ法人を設立。法人名義でアプリストアに登録し、収益を法人所得として管理しています。
その結果、節税効果があったのと、スマートフォンアプリにも精通できたことで取引先への信頼性も向上したそうです。
2. 営業職が不動産管理会社を設立
営業職のBさんは副業として所有するアパートの管理業務を法人化しました。勤務先の業務とは競合しないため、副業も許可されていたそうです。
具体的には、賃貸物件の管理や賃貸収入の管理を行うために法人。法人経費として計上できたことで節税できたといいます。また、社会保険の負担も軽減され、子供の教育費なども潤沢になったそうです。
3. クリエイターがデザイン業務を法人化
本業の傍ら、趣味でグラフィックデザインをしていたCさん。デザインスキルを活かし、ロゴやポスター制作の依頼を受けていたため、個人依頼から法人契約に移行。取引の信頼性も向上し、クラウドソーシングや企業からの大口案件を受注するようになりました。副業での収入規模が拡大し、法人経費の利用で経費計上の幅も広がったとか。
これらの事例では、いずれも「本業に支障を与えない」「勤務先の規則に違反しない」という条件を守った上でマイクロ法人を活用しています。
まとめ
サラリーマンでもマイクロ法人を設立することは可能であり、節税や副業の選択肢として活用できます。ただし、会社の就業規則に違反しないこと、運営コストや管理義務を理解して進めることが重要です。
マイクロ法人を設立できるサラリーマンの特徴は、勤務先の規則を守りつつ、副業や事業運営に必要な資金・時間・知識を持つ人。自分の状況に応じて専門家に相談し、法人化のメリットとリスクを慎重に検討することが大切です。
以上を踏まえ、法人設立前に慎重に計画を立て、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。