目次
はじめに
2022年4月1日以後開始事業年度から導入されたグループ通算制度は、完全支配関係にあるグループ会社が税務署長の承認を受けることで、グループ内各社の損益を通算できる画期的な仕組みです。しかし、この制度は国税にのみ適用されるため、法人住民税や法人事業税といった地方税には直接的な適用がなく、独自の調整計算が必要となります。そのため、実務担当者はグループ通算制度の仕組みを正確に理解したうえで、地方税の取り扱いについても精通しておく必要があります。
特に、中間申告や予定納税の場面では、グループ通算制度特有のルールが複雑に絡み合うため、各通算法人が相互に連携しながら手続きを進めることが求められます。本記事では、グループ通算制度における予定納税と地方税の関係性を整理し、実務上の注意点をわかりやすく解説していきます。令和06年度版のシステム対応も含め、最新の情報をもとに詳しくご説明します。
グループ通算制度と地方税の基本的な関係

グループ通算制度は国税における制度ですが、法人住民税の課税標準は法人税額に基づくため、地方税においても間接的な影響を受けます。ここでは、地方税とグループ通算制度がどのように関連しているかを、法人住民税・法人事業税それぞれの観点から整理します。
法人住民税におけるグループ通算の影響
法人住民税の法人税割は、法人税額を課税標準として計算されます。グループ通算制度のもとでは、この法人税額は損益通算や欠損金の通算が反映された後の数値となるため、地方税側では独自の調整計算が必要となります。具体的には、通算グループ内での損益通算があった場合、法人住民税において「通算対象欠損金額×法人税率(23.2%)」を課税標準額に加算して再計算するという特別な処理が行われます。
さらに、この加算によって発生した金額については、益金算入があった場合には当該金額を10年間にわたって繰越控除することができます。このような処理は、国税のグループ通算制度をそのまま地方税に適用できないために設けられた調整措置であり、実務担当者はこの計算ロジックを正確に把握しておく必要があります。特に複数の通算法人が存在するグループでは、各社の調整額を正確に積み上げることが重要です。
また、繰越欠損金の通算があった場合も同様の調整が必要となります。地方税独自の観点から欠損金の取り扱いを管理するためには、国税側の処理と並行して、地方税側の繰越控除の状況を別途追跡する仕組みを整えることが実務上の鍵となります。
法人事業税における課税標準の特殊性
法人事業税は法人税の課税所得を課税標準としますが、グループ通算制度においては「損益・欠損金通算を行う前の所得金額」が課税標準となる点が重要です。つまり、通算グループ内での法人間損益通算が適用される前の課税所得に基づいて計算されるため、国税の申告書に記載された法人税額とは異なる基礎数値を用いることになります。
たとえば、グループ通算によって欠損金が使用されたS2社であっても、法人事業税では単体申告と同様の欠損金の取り扱いを受けます。グループ通算がなかったとしたら計上される欠損金がそのまま申告書に記載され、翌期に繰り越される形となります。この処理は、地方税がグループ通算制度の外側に位置していることを明確に示しており、国税と地方税の申告書を別々に管理する必要性を生じさせています。
一方、P社やS1社のような所得を有する通算法人は、通算前の所得を基礎として法人事業税と法人住民税を納付することになります。つまり、グループ内で欠損金が通算されたとしても、地方税では各社が個別の課税所得に基づいて納税義務を負うことになる点を、グループ全体で共有しておく必要があります。
開始時の繰越欠損金切り捨てと地方税の対応
グループ通算制度への移行時には、開始時の繰越欠損金の切り捨てという処理が国税では生じることがあります。しかし、地方税にはこのような切り捨て制度が存在しないため、法人住民税および法人事業税では別途の対応が必要となります。法人住民税では、「切捨欠損金額×法人税率」を「控除対象通算適用前欠損調整額」として繰越控除する処理が行われます。
法人事業税では、切り捨てがなかったものとして欠損金をそのまま繰越控除することになります。これは、地方税が独自の欠損金管理を行うことを意味しており、国税側の処理とは完全に独立した計算体系を維持しています。実務担当者は、国税と地方税の欠損金残高が異なる状態となることを前提として、それぞれの申告書を管理する体制を整えることが不可欠です。
グループ通算制度における中間申告と予定納税の仕組み

中間申告と予定納税は、グループ通算制度において特に注意が必要な手続きです。グループ全体の統一性が求められるこれらの手続きを適切に処理するためには、各通算法人が密接に連携し、グループ全体として一貫した方針で対応することが重要です。以下では、中間申告の要否判定から仮決算の扱いまで詳しく解説します。
中間申告の要否判定の方法
地方税の中間申告の要否については、通算法人ごとに、グループ通算制度が適用された前事業年度の法人税額を基礎として判定します。つまり、グループ全体としての判定ではなく、各通算法人が個別に前事業年度の法人税額を確認し、中間申告義務の有無を判断するという仕組みになっています。この点は、国税の中間申告の仕組みと共通している部分です。
しかし、各通算法人が個別に判定を行う一方で、グループ全体としての統一性も求められます。特に、後述する仮決算による中間申告においては、グループ全体の足並みを揃えることが有効性の条件となっています。このため、中間申告の要否を判定する段階から、グループ内の各通算法人が情報を共有し、協調して手続きを進めることが実務上の基本となります。
仮決算に基づく中間申告の要件
仮決算に基づく中間申告は、通算グループ内のすべての通算法人が仮決算による中間申告書を提出した場合に限り有効となります。これは、グループ通算制度における最も重要なルールの一つです。もしいずれかの通算法人が仮決算による中間申告書を提出しなかった場合、中間申告の義務がある通算法人はすべて「前年度実績を基準とする予定申告があったものとみなされる」という措置が適用されます。
この「みなし予定申告」が適用された場合でも、納税義務は消滅しないため、実際に納税が必要となる点に注意が必要です。つまり、グループ内の1社でも仮決算中間申告を怠ると、他の通算法人も予定申告ベースでの納税を余儀なくされる可能性があります。このような連帯的な影響関係こそが、グループ通算制度における中間申告の最大の特徴であり、各通算法人が相互に連携する必要性の根拠となっています。
以下は、仮決算中間申告の有効条件をまとめた表です。
| 状況 | 結果 |
|---|---|
| 全通算法人が仮決算中間申告書を提出 | 仮決算による中間申告が有効 |
| 一部の通算法人が仮決算中間申告書を未提出 | 中間申告義務のある通算法人は予定申告があったものとみなされ、納税が必要 |
予定納税の義務が生じない特殊ケース
グループ通算制度においては、所得税額控除によって法人税が還付となり、地方税のみが納付となるという特殊なケースが発生することがあります。このような場合、従来の処理では地方税の予定納税の計算が行われていましたが、実際には法人税および地方税の両方において翌期の予定納税の義務が生じません。
令和06年度版の「グループ通算の達人」では、このような場合に予定納税の計算を行わないよう改善が実施されています。この対応に伴い、確定申告データや修正・更正データを翌期繰越して予定申告データを作成した際には、翌期繰越項目への繰り越しの判定が追加されることになります。実務担当者はシステムの変更内容を正確に把握し、適切な処理を行うことが求められます。
令和06年度版における地方税予定申告の変更点

令和06年度版のグループ通算処理においては、地方税の予定申告書に関する重要な変更が実施されています。これらの変更は、実務の正確性を高め、不必要な繰り越し処理を防止することを目的としています。以下では、各変更点の具体的な内容と、実務上の対応方法について詳しく解説します。
予定申告書の対象帳票と変更内容の概要
今回の変更対象となる帳票は以下の通りです。道府県民税・事業税・特別法人事業税および市町村民税の予定申告書として、「第六号の三様式」「第六号の三様式(その2)」「第六号の三様式(その3)」「第二十号の三様式」が含まれます。これらの帳票から翌期の中間申告書である「第六号様式」「第六号様式(その2)」「第六号様式(その3)」「第二十号様式」への繰越において、翌期の中間申告の要否に応じた処理の変更が行われます。
変更の核心は、繰越元の帳票で「翌期の中間申告の要否」をダブルクリックして表示される「翌期中間申告要否」画面で「否」を選択している場合、一部の翌期繰越項目にはデータを繰り越さないようになる点です。これにより、中間申告が不要な場合における不必要なデータの引き継ぎが防止され、申告書の精度が向上することが期待されます。
対象帳票と繰越先の対応は以下の通りです。
- 第六号の三様式 → 第六号様式
- 第六号の三様式(その2)→ 第六号様式(その2)
- 第六号の三様式(その3)→ 第六号様式(その3)
- 第二十号の三様式 → 第二十号様式
均等割額の入力方式の変更
今回の変更において特に注目すべき点が、「均等割額」の入力方式の変更です。従来は入力切替項目として扱われていた均等割額が、手入力項目に変更され、データが繰り越されないようになりました。この変更により、ユーザーは均等割額を毎回手動で入力する必要が生じますが、その一方で、誤ったデータが引き継がれてしまうリスクが低減されます。
均等割は、所得や税額に関わらず課税される定額の税であるため、前期のデータをそのまま引き継ぐことが必ずしも適切ではありません。特に、会社の規模が変動した場合や、市区町村の税率が改定された場合には、前期データの流用が誤申告につながる可能性があります。手入力項目への変更は、このようなリスクを防ぐための合理的な措置といえます。
帳票画面を開いていない場合の繰越処理
もう一つの重要な変更点として、繰越元のデータで予定申告書を作成しているが各帳票画面を開いていない場合の処理があります。このような場合には、「当期分」を翌期繰越するよう変更されました。これは、帳票画面を開かずに予定申告書を作成した場合でも、適切なデータが翌期に引き継がれるようにするための改善措置です。
従来のシステムでは、帳票画面を一度も開かないままデータを翌期繰越した場合に、繰越処理が不完全になるケースが想定されていました。この変更により、そのようなリスクが軽減され、システムの信頼性が向上します。なお、これらの処理変更は「グループ通算の達人(令和06年度版)[通算処理用]」において実行されるものであり、個社処理用とは一部取り扱いが異なる点にも注意が必要です。
以下は、今回の主な変更点をまとめた一覧です。
| 変更項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 「翌期中間申告要否」が「否」の場合の繰越 | 一部項目も繰り越される | 一部の翌期繰越項目はデータを繰り越さない |
| 均等割額の入力方式 | 入力切替項目 | 手入力項目(繰越なし) |
| 帳票画面を開いていない場合の繰越 | 処理が不完全になる可能性あり | 「当期分」を翌期繰越するよう改善 |
まとめ
グループ通算制度における予定納税と地方税の取り扱いは、国税と地方税の制度的な乖離から生じる複雑な調整計算が多く、実務担当者にとって高度な専門知識が求められる領域です。中間申告においてはグループ全体の統一性が有効性の要件となっており、各通算法人が緊密に連携することが不可欠です。また、法人住民税・法人事業税それぞれにおける独自の欠損金調整や課税標準の計算方法を正確に理解し、国税申告と並行して適切に管理することが重要です。
令和06年度版のシステム変更は、このような複雑な実務処理をより正確かつ効率的に行うための重要な改善です。均等割額の手入力化や繰越判定の追加といった変更内容を正しく把握し、グループ全体でシステムを適切に活用することで、申告ミスのリスクを最小化することができます。グループ通算制度の継続的な運用においては、制度改正やシステム更新の情報を常にアップデートし、グループ内で共有する体制を整えることが、健全な税務管理の基盤となるでしょう。
よくある質問
グループ通算制度は地方税にも直接適用されるのですか?
グループ通算制度は国税にのみ適用される制度であり、法人住民税や法人事業税といった地方税には直接的な適用がありません。地方税においては、独自の調整計算が必要となります。例えば、法人住民税では損益通算があった場合に「通算対象欠損金額×法人税率(23.2%)」を課税標準額に加算して再計算するという特別な処理が行われます。
仮決算に基づく中間申告が有効となるための条件は何ですか?
仮決算に基づく中間申告は、通算グループ内のすべての通算法人が仮決算による中間申告書を提出した場合に限り有効となります。もしいずれかの通算法人が仮決算による中間申告書を提出しなかった場合、中間申告の義務がある通算法人はすべて「前年度実績を基準とする予定申告があったものとみなされる」という措置が適用されます。
法人事業税の課税標準はどのように計算されるのですか?
法人事業税は「損益・欠損金通算を行う前の所得金額」が課税標準となるという特徴があります。つまり、通算グループ内での法人間損益通算が適用される前の課税所得に基づいて計算されるため、グループ内で欠損金が通算されたとしても、地方税では各社が個別の課税所得に基づいて納税義務を負うことになります。
令和06年度版のシステムで均等割額の取り扱いが変更された理由は何ですか?
従来は入力切替項目として扱われていた均等割額が手入力項目に変更されたのは、前期のデータをそのまま引き継ぐことが必ずしも適切ではないためです。会社の規模が変動した場合や市区町村の税率が改定された場合には、前期データの流用が誤申告につながる可能性があるため、毎回手動で入力することで誤ったデータの引き継ぎを防止することができます。
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