目次
はじめに
社会保険料は個人負担15%、法人負担15%の合計30%にもなる最大の税金負担として、多くの企業経営者を悩ませている問題です。給与の約30%相当が社会保険料として国に納められ、会社負担は給与の15%に達するため、この大きな負担を抑えることは当然の経営判断といえます。しかし、合法的かつ効果的な削減方法を正しく理解している経営者は意外に少ないのが現状です。
社会保険料の基本的な仕組み
社会保険料は実際の給与額ではなく「標準報酬月額」に基づいて計算されており、4月~6月の3ヶ月間の平均給与を基準に算定されます。この標準報酬月額には一定の範囲が設定されており、給与額には等級制度が採用されています。
例えば、給与が290,000円~310,000円の場合、標準報酬月額は300,000円に統一されるという仕組みになっています。この制度の特性を理解することが、効果的な社会保険料削減の第一歩となります。
削減による経済的メリット
適切な社会保険料削減を行うことで、企業は年間数百万円規模のコスト削減を実現することが可能です。例えば、年間報酬1,200万円の役員について適切な配分変更を行うことで、約145万円の削減が実現できるケースもあります。
これらの削減効果は単年度だけでなく継続的に発生するため、中長期的な企業の財務健全性向上に大きく寄与します。ただし、削減方法には様々な注意点やリスクも存在するため、慎重な検討と専門家のアドバイスが必要不可欠です。
削減時の注意点と影響
社会保険料を削減することには全般的なデメリットも存在します。将来もらえる年金額が減少し、病気時の傷病給付金も減少するため、これらを把握した上で実施することが重要です。標準報酬月額を基に計算される各種給付金の金額が減少することで、従業員の長期的な利益に影響を及ぼす可能性があります。
また、失業保険の給付額も標準報酬月額に基づいているため、社会保険料を抑えることで退職後に受け取る失業保険が減額され、特に再就職が難しい場合には生活費の確保が困難になるリスクがあります。したがって、従業員との十分な話し合いと合意形成が必要です。
基本的な削減方法

社会保険料削減の基本的なアプローチは、標準報酬月額の算定基礎となる4月~6月の給与調整と、給与体系の見直しに大きく分けられます。これらの方法は比較的実施しやすく、immediate効果が期待できるため、多くの企業が最初に検討すべき手法です。ここでは、具体的な削減テクニックを詳しく解説していきます。
4月~6月の給与調整
最も基本的で効果的な方法として、算定基礎期間である4月~6月の給料を調整する手法があります。具体的には、残業時間を削減することで給与総額を抑える、昇給月を7月以降に調整する、算定期間中の賞与支給を避けるなどの方法が挙げられます。
また、通勤手当を毎月支給から6ヶ月定期代に変更することで、定期券の割引分による削減効果と、算定期間中の支給額削減の双方の効果を得ることができます。ただし、従業員の利便性も考慮して実施する必要があります。
標準報酬月額の等級調整
給与を289,999円に設定すれば、標準報酬月額は一つ下の280,000円となり、労使合わせて6,048円(会社負担3,024円)の削減が可能です。このような微調整を複数従業員、複数年で積み重ねると、かなりの軽減額になります。
役員報酬についても、保険料額表のギリギリに設定する方法があり、例えば月給35万円ではなく349,999円に設定することで、月額約3,000円、年間約7万円の削減が可能になります。これらの調整は比較的簡単に実施できる効果的な手法です。
福利厚生への振り替え
昇給ではなく福利厚生を充実させることで、従業員の実質的な待遇向上と社会保険料削減を同時に実現できます。具体的には、資格取得費用補助、書籍購入補助、食事補助、慶弔見舞い、社員旅行などが有効です。
これらの福利厚生費は社会保険料の算定基礎に含まれないため、従業員にとっては実質的な収入増加となりながら、会社にとっては社会保険料負担の削減につながります。また、福利厚生の充実は従業員満足度向上にも寄与するため、一石二鳥の効果が期待できます。
役員報酬と賞与の活用戦略

役員報酬と役員賞与の配分を戦略的に変更することは、最も効果的な社会保険料削減方法の一つです。役員報酬が一定額を超えると社会保険料が上がらなくなるという仕組みを活用し、月額報酬を下げて役員賞与を増やすことで大幅な削減が実現できます。ただし、この方法には税務上の手続きや注意点があるため、正しい知識と適切な実施が必要です。
社会保険料の上限制度の活用
大阪府の事例では、健康保険料は月額報酬135万円を超えると16万円以上上がらず、厚生年金保険料は月額報酬62万円を超えると11万円以上上がりません。この上限制度を活用することで、高額な役員報酬を受け取っている経営者は大幅な削減が可能になります。
賞与についても社会保険料には限度額が設定されており、健康保険は年間573万円、厚生年金は月間150万円が上限となっています。この限度額を超える部分については社会保険料が発生しないため、高額な賞与支給による削減効果は非常に大きくなります。
具体的な配分変更事例
実際の事例では、年収2,170万円を変えずに、月額報酬を2,170万円から120万円に下げ、役員賞与を0円から2,050万円に変更することで、社会保険料を330万円から132万円に削減し、198万円を捻出した例があります。この削減額は企業の収益改善に大きく貢献します。
別の事例では、年間報酬1,200万円の役員について、毎月100万円支給した場合の年間社会保険料2,643,384円を、月額10万円に減らし賞与で1,080万円を一度に支給することで年間社会保険料を1,198,056円とし、約145万円の削減を実現しています。
事前確定届出給与の活用
役員賞与は通常損金になりませんが、「事前確定届出給与」という仕組みを税務署に事前届け出することで損金化できます。この届出を適切に行うことで、税務上の問題を回避しながら社会保険料削減を実現できます。
事前確定届出給与を活用する場合は、税務署に「事前確定届出給与に関する届出」を一定期限までに提出する必要があり、これを怠ると法人税の計算で賞与の損金が認められません。届出のタイミングや金額設定には十分な注意が必要です。
高度な削減テクニック

基本的な削減方法を理解した上で、さらなるコスト削減を目指す企業には、より高度なテクニックが存在します。これらの方法は効果が大きい反面、実施に際してより専門的な知識と慎重な検討が必要になります。企業の規模や業態、従業員構成に応じて適用可能性を判断し、適切な専門家のサポートを受けながら実施することが重要です。
企業型確定拠出年金の導入
企業型確定拠出年金に入ることで、掛け金は退職金の前払い性質を持ち社会保険料対象外となります。従業員にとっては将来の資産形成に役立ちながら、企業にとっては社会保険料削減効果を得ることができる理想的な制度です。
特に一人オーナー社長の企業でも、月5.5万円を30年間掛けて利回り10%で運用すれば1億円を超える資産形成が可能です。従業員に制度のメリットを説明した上で適切な年金プランを選定し、金融機関と連携して運用管理を行うことで、長期的な企業価値向上にもつながります。
マイクロ法人の設立活用
個人事業と会社に分割し、会社から低い役員報酬をもらう方法では、年間300万円の削減が可能なケースもあります。この手法はマイクロ法人とも呼ばれ、適切に実施すれば大幅なコスト削減効果を得ることができます。
ただし、収入分割に合理性が必要であり、税務調査で否認される可能性があるため注意が必要です。事業の実態や収入の源泉を明確に分離し、それぞれの法人格で適切な事業運営を行うことが前提となります。専門家による事前の検討と継続的なサポートが不可欠です。
健康保険組合の選択活用
協会けんぽではなく健康保険組合を選択することで、保険料を節約できる場合があります。例えば、飲食店の場合は大阪府飲食業生活衛生同業組合などの業界団体の健康保険組合を選択することで、より有利な保険料率を適用できる可能性があります。
各業界には特有の健康保険組合が存在することが多く、協会けんぽと比較して保険料率が低く設定されているケースがあります。ただし、加入要件や給付内容に違いがある場合もあるため、総合的な比較検討が必要です。
まとめ
社会保険料削減は、適切な知識と慎重な実施により大幅なコスト削減を実現できる重要な経営手法です。基本的な4月~6月の給与調整から、役員報酬と賞与の戦略的配分、企業型確定拠出年金の活用まで、企業の状況に応じて様々な手法を組み合わせることで、年間数百万円規模の削減効果を得ることが可能です。
しかし、これらの削減方法には従業員の将来給付への影響や税務上のリスクも存在するため、実施に際しては十分な検討と専門家のアドバイスが必要不可欠です。従業員との十分な話し合いと合意形成を行い、長期的な企業価値向上の観点から最適な手法を選択することが、持続可能な経営につながる社会保険料削減の鍵となります。
今後も制度改正により利用できなくなる手法が出てくる可能性があるため、常に最新の情報を収集し、合法的かつ効果的な削減方法を継続的に検討していくことが重要です。適切な社会保険料削減により、企業の競争力向上と従業員満足度の両立を実現していきましょう。
よくある質問
社会保険料削減で年間いくら程度の削減が可能ですか?
企業の規模や役員構成によって異なりますが、年間報酬1,200万円の役員を例にした場合、月額報酬と賞与の配分を工夫することで約145万円の削減が可能です。年収2,170万円の役員では198万円の削減実績もあり、複数の手法を組み合わせることで年間数百万円規模のコスト削減を実現することができます。
社会保険料を削減すると従業員にどのような影響がありますか?
標準報酬月額に基づいて計算される年金額や傷病給付金、失業保険の給付額が減少します。特に失業保険については退職後に受け取る金額が減額されるため、再就職が難しい場合には生活費の確保が困難になるリスクがあります。そのため、削減を実施する際は従業員との十分な話し合いと合意形成が必要不可欠です。
4月~6月の給与調整以外にどのような削減方法がありますか?
福利厚生を充実させることで昇給ではなく実質的な待遇向上を実現する方法、役員報酬と賞与の配分を戦略的に変更する方法、企業型確定拠出年金を導入する方法があります。さらに進んだ手法として、マイクロ法人の設立や健康保険組合の選択活用も考えられます。
社会保険料の上限制度とは何ですか?
健康保険料と厚生年金保険料には上限が設定されており、月額報酬が一定額を超えるとそれ以上保険料が上がらなくなります。例えば健康保険は月額135万円を超えると16万円以上上がらず、厚生年金は月額62万円を超えると11万円以上上がりません。賞与についても限度額が設定されており、この仕組みを活用することで高額報酬の経営者は大幅な削減が可能になります。
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