ご相談はコチラモットー先生
資金調達税務相談その他ご相談

繰越欠損金の地方税と法人税の違いを徹底解説|申告ミスを防ぐ実務ポイント

tax


はじめに

企業経営において、赤字(欠損金)が生じた場合、その欠損金を将来の黒字と相殺して税負担を軽減する「繰越欠損金制度」は非常に重要な税務上の仕組みです。しかし、この制度を正確に活用するためには、法人税と地方税(住民税・事業税)とで取扱いが大きく異なる点を十分に理解しておく必要があります。

特に、M&Aや組織再編、グループ通算制度の導入といった複雑な税務イベントが絡む場面では、法人税と地方税の繰越欠損金の差異を見落とすと、税務メリットを正確に定量化できなかったり、申告誤りが生じるリスクが高まります。本記事では、繰越欠損金における法人税と地方税の違いを、具体的なケースを交えながらわかりやすく解説します。

繰越欠損金制度の基本と法人税・地方税の根本的な違い

taxation

まず、繰越欠損金制度の基本的な仕組みと、法人税と地方税でどのような根本的な違いがあるのかを整理します。この違いを把握することが、以降の実務的な議論を理解する上での土台となります。

繰越欠損金制度とは何か

法人税法上の課税所得がマイナス(赤字)になったときの金額を「欠損金」といいます。青色申告の承認を受けている法人では、この欠損金を一定期間繰り越して、課税所得が発生(黒字)した年度に相殺できる仕組みが設けられており、これが「繰越欠損金制度」です。現行制度では、欠損金は最長10年間繰り越すことができます。

ただし、大法人については控除限度額が設けられており、過去には段階的に引き下げが行われてきた経緯があります。たとえば、平成24年4月1日から平成27年3月31日開始事業年度は所得の80%、その後65%、60%、55%と段階的に引き下げられました。こうした控除限度額の変遷も、税負担の計算に影響を与えるため、適用時期に注意が必要です。

地方税には繰越欠損金制度が原則適用されない

重要なポイントとして、繰越欠損金制度はあくまで法人税に適用される制度であり、住民税や事業税といった地方税には原則として適用されないとする見解も存在します。ただし実務上は、事業税(所得割)においても欠損金の繰越控除が行われており、法人税の繰越欠損金制度と並行して機能しています。問題となるのは、両者の欠損金の「金額」や「計算方法」が異なるケースが生じることです。

つまり、赤字を繰り越して将来の黒字と相殺し、法人税の納税額を抑えることはできても、地方税の計算においては異なるルールが適用されるため、必ずしも同額の税務メリットが得られるわけではありません。この点を誤解したまま税務計画を立てると、実際の節税効果を過大に見積もるリスクがあります。

法人税と地方税で欠損金額がズレる主な原因

法人税と地方税の欠損金の金額がズレる原因は複数あります。代表的なものを以下に整理します。

  • 欠損金の繰戻し還付制度:法人税のみに適用があり、地方税には適用がない
  • 課税所得の計算方法の違い:事業税では社会保険等に係る医療所得などが非課税となるなど、法人税の課税所得と差異が生じる
  • グループ通算制度:法人税ではグループ内の通算が認められるが、地方税は単体申告が継続される
  • グループ通算開始・加入時の欠損金切捨て:法人税では切捨てが行われるが、地方税にはこの規定がない

これらの要因が重なることで、同一法人であっても法人税の繰越欠損金残高と地方税の繰越欠損金残高が乖離するケースが実務では多く見られます。M&Aの場面では税務上の欠損金に価値を見出すことがありますが、こうした差異を把握した上で税目別の欠損金額を定量化することが不可欠です。

欠損金の繰戻し還付制度における法人税と地方税の取扱い

taxation

欠損金の繰戻し還付制度は、前期が黒字で納税し、当期が赤字となった場合に前期の税金の一部を還付してもらえる制度です。しかし、この制度の適用範囲は税目によって異なり、法人税と地方税では取扱いが大きく異なります。ここでは、その具体的な違いと実務上の対応方法を解説します。

繰戻し還付制度の適用範囲

欠損金の繰戻し還付制度は、法人税および地方法人税にのみ適用される制度です。事業税(所得割)や住民税(法人税割)などの地方税にはこの制度が存在しないため、法人税で繰戻し還付を受けた場合であっても、地方税の申告においてはその繰戻しがなかったものとして扱う必要があります。

この取扱いの違いにより、法人税の繰越欠損金残高と地方税の繰越欠損金残高に差が生じます。たとえば、法人税で繰戻し還付を受けた場合、法人税の欠損金は前期の黒字と相殺されて消滅しますが、事業税の欠損金はそのまま翌期以降に繰り越されます。結果として、法人税の欠損金額が地方税の欠損金額を下回ることになります。

事業税における繰越欠損金の取扱い

事業税については、繰戻し還付適用前の欠損金を「事業税の欠損金」として取り扱います。具体的には、第6号様式別表9(欠損金額等の控除明細書)を使用して翌期以降に繰り越し、翌期以降の事業税計算の基礎となる所得金額から順次控除していきます。

このように、事業税は繰越控除額をそのまま引き継ぐ形となるため、法人税の別表七(一)と事業税の第6号様式別表9との間に差が生じます。実務担当者はこの差異を正確に管理し、税目別に欠損金の残高を把握しておくことが重要です。適用漏れが比較的少ないとされる事業税ですが、繰越欠損金の引継ぎ時には必ず確認が必要です。

住民税における控除対象還付法人税額の取扱い

住民税(法人税割)については、繰戻し還付によって還付を受けた法人税額を「控除対象還付法人税額」として処理します。道府県民税の場合は第6号様式別表2の3、市町村民税の場合は第20号様式別表2の3に記載して翌期以降に繰り越し、翌期以降の住民税計算の基礎となる法人税額から控除することになります。

住民税の処理は事業税と異なり、所定の別表への記載が必須であるため、適用漏れが生じやすい点に注意が必要です。特に、繰戻し還付後に再度欠損が継続して法人税割額が発生していない期間が続いた場合や、顧問税理士や担当者が変更された場合には、過去の控除対象還付法人税額の引継ぎが漏れるリスクが高まります。過去に繰戻し還付を行った法人は、住民税の法人税割額が再発生した年度に遡って申告内容を確認することが重要です。

繰戻し還付制度の法人税・地方税比較まとめ

以下の表に、繰戻し還付制度における法人税と地方税の取扱いの違いをまとめます。

税目繰戻し還付の適用欠損金の取扱い使用する申告書別表
法人税・地方法人税あり前期黒字と相殺して還付別表七(一)など
事業税(所得割)なし繰戻しなく翌期以降に繰越控除第6号様式別表9
住民税(法人税割)なし(控除対象還付法人税額として調整)還付法人税額を翌期以降の法人税割から控除第6号様式別表2の3、第20号様式別表2の3

この比較表からも明らかなように、各税目で処理方法と使用する申告書が異なります。実務では税目ごとに欠損金残高を別途管理し、毎期の申告時に正確に反映させることが求められます。特に住民税については、別表の添付漏れという形で誤りが生じやすいため、M&A実行後などに更正の請求や別表の追加提出が必要になるケースも少なくありません。

グループ通算制度における繰越欠損金の法人税と地方税の違い

taxation

グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用が始まった制度であり、連結納税制度に代わる新たなグループ課税の仕組みです。この制度下では、法人税と地方税の繰越欠損金の取扱いがさらに複雑に異なるため、実務上の注意が特に必要です。

グループ通算制度の基本的な仕組みと法人税での繰越欠損金通算

法人税のグループ通算制度では、通算グループ内で繰越欠損金の通算が認められています。具体的には、所得のある法人が他の法人の繰越欠損金(非特定欠損金)を配賦されて損金算入することができます。たとえば、所得のないB社の繰越欠損金をP社およびA社に配賦し、各社の所得から控除することで、グループ全体の法人税額を減少させることが可能です。

また、グループ通算制度への開始・加入時には、一定の要件を満たさない繰越欠損金が切り捨てられるというルールが法人税に設けられています。これは、制度の濫用を防ぐための規定ですが、地方税にはこのような切捨て制度が存在しないため、両者の欠損金額に乖離が生じます。

地方税(住民税)におけるグループ通算制度の調整方法

地方税ではグループ通算制度が創設されていないため、地方税の計算は引き続き単体申告として行われます。住民税の計算では、繰越欠損金の通算がなかったものとして課税標準である法人税額を算定する必要があります。

そのため、P社およびA社で配賦されて損金算入された繰越欠損金相当額に対応する法人税額を加算調整する「加算対象被配賦欠損調整額」を計上することで、住民税の計算上はグループ通算による欠損金通算が排除されます。一方、当該法人の繰越欠損金を他通算法人で損金算入された場合は、「配賦欠損金控除額×法人税率23.2%」した欠損金額を10年間繰越控除するという調整が行われます。

地方税(事業税)におけるグループ通算制度の調整方法

法人事業税においても、グループ通算制度における所得金額の計算は、通算グループ内の繰越欠損の通算規定を適用しないで計算されます。つまり、事業税の計算上は各法人が単体で課税所得および欠損金を計算し、グループ内の損益通算は考慮されません。

さらに、グループ通算開始・加入時に法人税で生じる欠損金の切捨てについては、事業税では切捨てがなかったものとして欠損金額をそのまま繰越控除していくこととなります。この結果、法人税の繰越欠損金残高と事業税の繰越欠損金残高が乖離し、税目別の欠損金管理がより一層複雑になります。

グループ通算制度における法人税と地方税の繰越欠損金比較

グループ通算制度における繰越欠損金の主な違いを整理すると、以下のようになります。

  • 欠損金の通算:法人税ではグループ内通算が可能。住民税・事業税では通算不可(単体計算)。
  • 開始・加入時の欠損金切捨て:法人税では一定の欠損金が切り捨てられる。地方税では切捨てなし。
  • 住民税の調整:「控除対象通算適用前欠損調整額」や「加算対象被配賦欠損調整額」などの調整計算が必要。
  • 事業税の調整:通算を適用しない単体の所得・欠損金で計算し、切捨ても行わない。
  • 繰越期間:法人税・地方税ともに10年間の繰越控除は共通。

このように、グループ通算制度では法人税と地方税で適用ルールが大きく異なるため、実務上は税目ごとに欠損金残高を個別に管理し、毎期の申告時に調整計算を正確に行うことが不可欠です。特にM&Aの場面では、グループ通算制度の適用有無やその影響を踏まえた上で、税務デューデリジェンスにおける繰越欠損金の評価を行うことが重要です。

まとめ

繰越欠損金は企業の税負担を管理する上で非常に重要な概念ですが、法人税と地方税では適用ルールが大きく異なります。欠損金の繰戻し還付制度、グループ通算制度、課税所得の計算方法の違いなど、複数の要因によって両者の欠損金残高は乖離します。この差異を正確に把握し、税目別に欠損金を管理することが、企業の適正な税負担管理およびM&Aにおける税務メリットの定量化において不可欠です。

実務では申告書の別表添付漏れや調整計算の誤りが生じやすく、後日の更正の請求や是正処理が必要になるケースも少なくありません。顧問税理士や担当者の変更時にも引継ぎを徹底し、繰越欠損金の管理を継続的かつ正確に行うことを強くお勧めします。

よくある質問

繰越欠損金制度は法人税と地方税の両方に適用されるのですか?

繰越欠損金制度は法人税に適用される制度ですが、地方税には原則として適用されません。ただし実務上は事業税(所得割)においても欠損金の繰越控除が行われており、法人税と並行して機能しています。ただし両者の欠損金の金額や計算方法が異なるケースが生じるため、注意が必要です。

法人税と地方税の欠損金額がズレるのはなぜですか?

法人税と地方税の欠損金額がズレる原因は複数あります。法人税のみに適用される繰戻し還付制度、事業税における非課税所得の存在、グループ通算制度における単体申告の継続、そしてグループ通算開始時の欠損金切捨てが法人税では行われるが地方税では行われないことなどが挙げられます。これらの要因が重なることで、同一法人でも税目別の繰越欠損金残高が乖離します。

繰戻し還付制度が地方税に適用されないとどのような影響が生じますか?

法人税で繰戻し還付を受けた場合、法人税の欠損金は前期の黒字と相殺されて消滅しますが、事業税の欠損金はそのまま翌期以降に繰り越されます。住民税についても控除対象還付法人税額として処理され、別表に記載して翌期以降に繰り越す必要があります。結果として法人税の欠損金額が地方税の欠損金額を下回ることになり、税目別の管理が複雑になります。

グループ通算制度下で繰越欠損金の取扱いにどのような違いがありますか?

グループ通算制度では法人税でグループ内の繰越欠損金通算が認められていますが、住民税と事業税では単体申告が継続されるため通算は認められません。また法人税では開始・加入時に一定の欠損金が切り捨てられますが、地方税では切捨てが行われません。これにより法人税と地方税の繰越欠損金残高が乖離し、実務上は税目ごとに個別管理と調整計算が不可欠になります。